「都会は限界」コロナで地方移住増か 相談が増加傾向 「目向き始めている」

2020.06.11
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丹波篠山市が開設している暮らし案内所=2020年6月9日午前8時29分、兵庫県丹波篠山市黒岡で

緊急事態宣言は解除されたものの、数カ月に渡って国民の生活を制限し続ける要因になっている新型コロナウイルス―。都市部で暮らす人の中には、コロナが原因で人が密集した都市より、人口密度が低い地方部への移住を考える人が出始めているようだ。兵庫県丹波地域の移住相談窓口への相談も増加傾向にあり、関係者らは、「コロナだけが原因で相談が増えているとは断定できないが、一定数影響はある」とし、「地方に目を向けてもらうきっかけにはなっているかもしれない」と分析する。

4、5月から相談件数増加
 兵庫県丹波篠山市が開設し、電話、メール、面談による相談を実施している「丹波篠山暮らし案内所」では、今年1―3月は月間計30―33件の相談で推移していたが、4月になると計44件になり、5月には計55件に増えた。4、5月は昨年と比べて、それぞれ15件、25件増となっている。
 同県丹波市の移住相談窓口「たんば”移充”テラス」は、4月13日から対面での相談を休止し、6月1日に再開。その間、メールや電話、「Zoom」を使ったオンラインでの相談を受けていたが、昨年4、5月の相談件数が計247件だったのに対し、今年4、5月は計273件と26件増えた。5月だけをみると、昨年よりも70件増の175件。このうち、はっきりと「コロナをきっかけに」移住相談したのは68件、相談のタイミングからコロナがきっかけと思われる相談は30件となり、全体の半数以上を占める。
「野外でのびのび遊ばせてやりたい」
 暮らし案内所スタッフの聞き取りでは、「農業がしたい」「家庭菜園ができる広い家に引っ越したい」などの理由が多いものの、中にはコロナを理由にする人もいる。
 阪神間の人からは、「コロナ禍の中、子どもを野外でのびのびと遊ばせてやりたい」と子育て世代ならではの思いがあったほか、中部圏の人からは、「コロナもあったし、これを機に田舎に移住したいと思っている」など、コロナ禍が移住の決断を後押しする形になったケースもあったという。
 また丹波篠山市内ではコロナの感染者が出ていないという情報を持っている人もおり、同市に限らず、感染者が出ていない地域への移住を検討している人もいたそう。
 さらにコロナによって自宅で勤務する「テレワーク」の動きが加速したことに伴い、IT系の仕事をしている人が、インターネット回線の状況を尋ねてくるケースもあるという。
 同案内所は、「これまでになかった『コロナ』という言葉が出てきているのは確か」とする一方で、「コロナの影響による収入減でローンが組めなくなり、もともと移住を計画していた人が取りやめることが出てくるかもしれない」と話す。
 ただ、「地方に目を向ける人が増えている。何がきっかけであっても、また移住までしなくても、丹波篠山を知り、好きになってもらえるきっかけになれば」と期待する。
「都会での生活限界」移住早める人も
 たんば”移充”テラスにも、「コロナによって都会での生活に限界を感じた」「多くの人が密集する都市部は、自分の意志とは関係なくさまざまな制約がある」といった内容の相談があり、窓口を運営する一般社団法人「Be」によると、以前から定年退職後に同市への移住を検討していた50代男性は、コロナの感染拡大を機に移住を早める意思を固めたという。今後、農家民宿などで“お試し移住”をしてから、物件探しに入る。
 美容室に勤務している阪神間の女性は、対面での仕事に恐怖を感じたため、接触が少ない地方への移住を検討。元塾講師の経験を生かし、オンライン授業などに取り組む塾経営に意欲を示しているという。
 同法人は、「コロナの拡大で、違う価値観に気付くきっかけになったという人が少なからずいる」と言い、「都会じゃないと働けない、生活できないという思い込みに縛られ、それ以外の生き方をするという選択肢に気付けていないケースもある。コロナにより、『他の選択肢もあるんだ』という気付きになっているのかもしれない」と話す。
ニーズが表面化「地方も真剣に取り組みを」
 5月末に地方移住を検討する人と自治体などの担当者をオンラインでつなぐ「全国移住フェア」を開催した団体「LOCONECT」(山口県周防大島町)の代表で、総務省地域力創造アドバイザーの泉谷勝敏さん(46)は、「新型コロナの影響は間違いなくあるが、『コロナがあったから』ではなく、『いつかは地方で暮らしたい』と潜在的に思っていた人たちのニーズが表面化してきた」と分析。「企業が本腰を入れてテレワークを導入したことで、働くことの概念が変わりつつある。オンラインで相談できる体制もでき、地方に目が向き始めている」と話す。
 同フェアには38道府県から138の自治体や民間団体が参加。計約170人がオンライン上で移住相談に臨み、うち6割はコロナを意識した相談だったという。
 「これまで子どもたちは、都市部の大学に進学し、そこで就職するのが当たり前だった。これからは地方でも暮らせる、働けるということを大人たちが示していかないことには、子どもたちは戻ってこない」と泉谷さん。「この機会をつかめるかどうかは、地方次第。真剣に取り組まないといけない」と話している。
 丹波篠山市創造都市課も、「田園回帰のきっかけにと期待している」とし、「人口減が進む地方にとって”追い風”にできるよう、オンラインなども活用して移住相談事業を進めていきたい」とした。
 一方、移住関係者は、「地方に来たからといってすべてが解決するわけではなく、地方ならではの不便さもある。逆に地方ならではの良さがあるのも事実。移住を検討している人は、移住相談窓口などを活用し、しっかりと現状を知ってから移住してもらいたい」と話した。

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