立ち直るための“仕掛け”  元気はまた取り戻せる【認知症とおつきあい】(6)

2020.09.06
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認知症であっても、ちょっとしたことが本人の自信を取り戻すきっかけになる。役割を見つけ、自己肯定感を持てることで、また元気に日々を過ごすことができる。

久しぶりの友人と会った。お母さんが息子をなくして、外に出て行く意欲もなくなっている、お母さんにもう一度元気を取り戻して欲しいと、帰省して食事や温泉に誘っているという。

仕事の合間を縫って度々車を走らせて来る彼女のお母さんを思う気持ちが伝わってきた。そのお母さんが入院された。お母さんが寂しくないようにと、入院生活で寝たきりになり、認知症が進まないようにと彼女は毎日見舞った。

兄弟姉妹の誰もが96歳という高齢のお母さんが回復できるかどうか不審がった。

しかし、彼女の行動力はすごかった。入院中のお母さんをベッドから起こし、デイルームに連れて行って、好きだった縫物を母の前でやって見せた。お母さんの目に輝きが出て、自分も手に取ってみたいと興味津々となった。

その様子を見た入院患者が寄ってきて会話が生まれ、お母さんは得意げに裁縫の話ができるようになった。

同年代の男性や病院のスタッフからも声がかかり、お母さんの目はさらに輝き、冗舌になり、息子の死以来見たことがなかった笑顔が戻った。

そして今は退院して、デイサービスに通っているそうだ。若いスタッフや同年代の利用者との会話を楽しみに。

ちょっとしたことが本人の自信を取り戻すきっかけになり、役割を見つけることにより、自己存在感を持てるようになった。

認知症を患った人は、「自分で何かしたい」と思っても何をするかを見つけるのが苦手。長年してきた仕事や趣味の中で、今も少し手伝ってもらえば出来ることがある。それを不安なくできるように周囲の人が手助けすることで、自分でできた喜びを感じることが出来たとき、生きがいになる。

デイサービスに行ったことは覚えていても、何をしてきたかは忘れてしまうお母さんが、喜んでデイサービスに出かける姿が今、友人を支えているという。

寺本秀代(てらもと・ひでよ) 精神保健福祉士、兵庫県丹波篠山市もの忘れ相談センター嘱託職員。丹波認知症疾患医療センターに約20年間勤務。同センターでは2000人以上から相談を受けてきた。

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