サル群れが”悪行”中 憤慨する住民「捕獲を」「農家守って」 市「地域で柵徹底を」

2020.12.05
地域自然

民家の屋根でくつろぐサル=2020年11月25日午前9時22分、兵庫県丹波篠山市内で

兵庫県内でも有数のニホンザル生息地、同県丹波篠山市。群れの数は県内最多の5群、頭数は約190頭を数える。うち一つの群れ(約30頭)がここ数日、複数の集落に頻繁に出没し、特産の黒大豆を食べたり、民家の屋根を飛び回るなど、”悪行”の限りを尽くしている。群れの位置情報システムや監視員、追い払いのモンキードッグ育成など、被害軽減と群れの絶滅回避など市の取り組みが「先進的」と評価される一方、今まさに被害を受けている住民は、「人手も少なく、対策には時間がかかる。目の前にいるサルを捕獲することはできないのか」と憤る。現状を探った。

畑の黒大豆を奪って走り、道々にきれいに食べたさやを落として回る。おなかが膨れると民家の屋根の上でのんびり毛づくろいや追いかけあいに興じる。時には屋根を滑り台にして遊んだり、お堂の鐘を鳴らしたり。

「せっかく作った豆を取られたら悔しい。屋根は瓦が壊れないか心配。家の中に入ってこられたらと思うと、おちおち窓も開けられない。どないかなりませんのやろか」―。住民の女性が嘆く。

女性はサルが出るたびに追い払いのロケット花火を撃ち込んでいるが、「1、2メートルほど下がるだけで、じっとこっちを見てます。なめられてますわ」。

対策を取れば押し付け合い?

 この群れは10年ほど前、同じ地区内のさらに北部の集落で畑を蹂躙(じゅうりん)したことがある。その後、市の補助を受けた住民らがサル用電気柵を導入し、追い払いも熱心に行ったことで、北部集落への出没は減っていたが、数年前から対策が手薄だった南部に現れるようになった。

市には住民から対策を求める声が相次いでいるが、現状、目の前にいるサルに対抗するには、追い払いしかないという。市森づくり課は、「ロケット花火もただやみくもに撃つだけではなく、しっかりサルの近くで破裂させることが重要。打った後に追いかけていくことも有効」とする。

対して住民は「追い払いは押し付け合い。ここで対策を取れば、どこかの集落がやられるだけちゃうんか」と悩み、「やはり捕獲してほしい」と訴える。

しかしサルは個体数が少なく、捕獲し過ぎると群れや種の絶滅につながる恐れがあるため、鳥獣保護法に基づき、市や県は被害防止や保護管理の計画を策定。“大人”の雌が15頭以下の群れは原則として「オトナメス」の捕獲を行っていない。県森林動物研究センター(同県丹波市)によると、オトナメスが15頭以下になった群れは数年後に絶滅する可能性が高いからだという。

サルと人の共存を目指し、増え過ぎた場合のみ捕獲するなど、捕獲よりも「管理」に重点を置いた方針での被害軽減を掲げている。ただし被害防止のため、やむを得ない場合は有害な個体を判別して捕獲しており、今回、問題になっている群れも被害が目立ったため、すでにオトナメスは9頭にまで減らしている。

電気柵の徹底 市の対策方針

とはいえ、目の前の被害に対して打つ手もなく傍観していては、さらにサルを集落に呼び込むことになる。

同課は、「大切なのは、作物を守る専用電気柵を徹底すること。効果を発揮し、ほとんど被害がなくなった集落もある。また防護柵はしてあっても、サルが入れるようなやり方では効果がない。最大の目的は、居心地が良くて、おいしいものが食べられる”楽園”と思われないようにしないといけない」と話す。

「対策を取ることが、押し付け合いになるのでは」との声には、「サルが出没する集落全てで対策が取れたら、サルは山から出てこない。追い払いではなく、山へ追い上げることを意識してほしい」と言う。

継続負担発生も「地域が主体に」

対策に有効とされるサル用電気柵の設置には、市が半額を補助する制度を設けている。集落でまとまった対策を取る場合は、依頼があれば市職員らが出向いて勉強会も開いている。

市は、「サル対策の手法は確立できているが、主体はあくまで地域。畑の野菜が取られても個人が許していると被害が集落全体に広がる。集落の中で情報共有を図ってもらい、みんなで対策する体制さえ取ってもらえたら、被害はゼロにすることができる」と語る。

それでも被害がなくなるまでには時間を要し、電気柵の費用や追い払いなど、継続的な負担は地元に発生する。ある男性は、「少子高齢化で人が減る中、このままではさらに農家がやる気をなくす」と言い、「サルを守る法律はあっても、農家を守ってくれる法律はないのか。法律を改正すべきだ」と憤慨する。

一方、対策が功を奏している北部集落の男性は、「自分たちもやられていたときは腹が立ってしかたがなかった。農業をやめようとしていた人もいた」と振り返り、「専用電気柵を入れてからは被害がなくなった。自分が育てたものを守るためにはある程度、自己負担は必要だと思う」と話す。

NPO法人・里地里山問題研究所の代表理事で、サル対策に詳しい鈴木克哉さんは、「大切に育てた野菜を食べられたつらさは重々承知している。これまでにも被害が出た集落に入り、『なぜ何もしてくれないのか』『捕ってほしい』と言われてきた」と言い、「捕ってほしいという声は、『被害を減らして』ということ。何頭か捕獲しても被害が減らなければ意味がない。地域でまとまってもらえれば、いくらでもサポートに出向くので、機会をつくってもらいたい」と話している。

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