「京都文学賞」で最優秀 平安時代の洛中描いた「羅城門に啼く」 丹波出身の松下隆一さん

2021.03.19
地域歴史

出版された本を手に「今後は小説を軸足に作家活動をしたい」と話す松下さん=2021年3月17日午前11時46分、兵庫県丹波市柏原町下小倉で

兵庫県丹波市出身の作家、松下隆一さん(57)=京都市=が書いた小説「もう森へは行かない」が、昨年開催されたプロ・アマ混合のコンクール「第1回京都文学賞」で一般部門最優秀賞に選ばれ、昨年11月に「羅城門に啼く」に改題して新潮社から出版された。長年、さまざまなジャンルの脚本を手掛けてきた松下さんは「56歳での受賞に、長く続けることのすごみのようなものが身をもって分かった」と喜びをかみしめている。受賞を機に、さらに3小説が書籍化され、小説家として新たなスタートを切った。

同文学賞は、京都市などでつくる実行委員会の主催で、同部門には464点の応募があった

「羅城門―」は、平安時代の洛中が舞台。死刑寸前の若い悪党が、空也上人に救われ、償いに目覚めていく―という内容で、罪と罰と生をテーマにしている。松下さんは「空也上人はいつか取り上げたいと思っていた人物で、着想から完成まで2カ月足らずで書いた」と言う。同文学賞は作品の舞台が「京都」であることが条件で、「京都に長年住んでいるので、地の利があったかな」とほほ笑む。

高校生のころから文学に親しみ、SF小説を書いていた。篠山産業高校機械科卒業後、小松製作所にエンジニアとして就職したが、好きな道に進みたいと、京都・太秦にあった「KYOTO映画塾」の門をくぐり、2年間、脚本を学んだ。これまでテレビや映画、舞台などの脚本を多数手掛け、代表作に昨年放送されたNHKドラマ「雲霧仁左衛門」シリーズなどがある。昨年公開された永瀬正敏さん主演の映画「二人ノ世界」は、松下さんの小説が原作。

書籍の出版は「羅城門―」が7冊目。受賞を機に、小説の書籍化が相次いで決まり、今年1月には「ゲンさんとソウさん」(薫風社)が、きょう18日に「春を待つ」(PHP研究所)が出版される。小説はいずれも、明暗のある「人間」を深く掘り下げることを主眼としているという。

脚本の仕事に行き詰まりを感じ、“原点”の小説で勝負していきたいと、一念発起して挑んだ同文学賞。松下さんは「業界的には無名のまま日の目を見ないのかと諦めかけていたが、何十年も努力を続けていればかなうと実感している。これからは年に1、2冊でも小説を発表し続けたい」と意欲を燃やしている。

4月から1年間、京都精華大学の講師を務め、マンガ学部アニメーションコースでシナリオの基礎を教える。

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