「1748分の158頭」 搬入増も精肉できず シカ肉処理施設の現場 「1日4頭が精一杯」

2021.03.27
地域

組合で部位ごとに精肉した「丹波鹿」を手にする柳川瀬組合長=2021年3月17日午後5時22分、兵庫県丹波市氷上町谷村で

(中)
猟師が持ち込んだシカを解体し、精肉とドッグフード用原料を販売する、兵庫県丹波市の鹿加工組合丹波。シカの搬入量が増加する一方で、骨や内臓など産業廃棄物の処分費がかさみ、県の事務手数料でまかなえず、組合の持ち出しが続く事態が生じている。肉の仕入れ原価はゼロだ。引き受け頭数の増加で産廃処分費がかさむ一方、取れる肉の量が増え、売り上げが増えれば経費を吸収できるのではないのか。柳川瀬正夫組合長(71)は「そうはならない。ただで仕入れて丸もうけのように言われるが、やればやるほど利益が出ない構図」と吐露する。

狩猟期に組合が有効利用したシカの内訳

30キロのシカ1頭をさばいたとき、ドッグフード用は3500円ほど、全ての部位を丸々精肉できる状態の良いシカなら、1万4000円ほどになる。しかし、今狩猟期に精肉できたのは、1748頭中158頭にとどまる。これにはスジのみなど、一部位しか使えなかった個体を含む。

理由は2つ。組合は通年営業だが、搬入の狩猟期への集中と、食肉にできる適切な処置がされたシカが少ないことだ。

11月と3月の利用内訳を見れば一目瞭然。11月は15日の狩猟解禁から月末までの半月に搬入された325頭のうち5頭しか精肉できなかった。猟期末の3月は半月で145頭中27頭を精肉。解体する時間が生まれたからだ。過度な集中故に、高値で売れるが手間のかかる精肉に人手が割けず、手間が少なく量産できるものの単価の安いドッグフード用に注力せざるを得ない。

鮮度が命。精肉に人手を割くと、皮をむき、内臓を取り出し、枝肉にする作業が追い付かなくなる。搬入後、即、枝肉にしなければ、犬用にもならず、丸々産廃になる。

枝肉にするまでは、食肉も犬用も同じ。この先の手間が違う。「犬用なら日に20頭、精肉は4頭解体が精一杯」と、組合の精肉担当、柳川瀬大介さん(41)。

持ち込まれるシカのうち、食品にできる、状態の良い個体は少ない。見た目はきれいでも、わなにかかってひどく暴れ、ストレスがかかった肉は変色している。放血が不十分な個体が多く、精肉に使えない。

県森林動物研究センター(同市青垣町)の研究部長で、県立大の横山真弓教授らが2012年に丹波市産シカで行った研究で、体重に占める肉の歩留まりは雄雌とも約35%だった。精肉された個体は捕獲段階から「食品」として適切に管理されたものだった。現実はと言うと、昨季の狩猟期に組合で精肉にできたのは2%(重量比)だ。

200頭以上搬入が増えた今季の精肉量は集計中で明らかではないが、組合は、昨季の935キロと同程度を見込む。犬用は数トン増えるが、経営への貢献は限定的だ。

組合の解体記録。この日20頭を犬用の枝肉にし、精肉は1頭だった

組合を立ち上げた13年時点の想定処理頭数は、年間1000頭。精肉4割、ドッグフード用6割を見込んでいた。全量精肉にするのは不可能で、ドッグフード用を含めたベストミックスを考えた。4対6でなお年間600万円ほどの赤字が見込まれ、市が運営補助金を出してきた。しかし、昨年度の狩猟期は、精肉1対ドッグフード用18(重量比)と、見込みとかけ離れた結果になっている。今季も同様だ。

丹波市のシカ利活用は、06年に本州初のシカ肉専門の加工施設をつくり、「丹波鹿」のブランドを展開した「丹波姫もみじ」(同市氷上町)に端を発する。同社は業界のトップランナーとして、各地で始まったシカ肉の有効活用に先鞭を付け、「鹿肉」を市の地域資源にする源になった。

同社は年間350―400頭のシカを猟師から買い、さばいて精肉にして販売。精肉にできないものを、ドッグフード製造販売「EGサイクル」(同市山南町)に販売した。両社と、丹波市猟友会の三者で立ち上げたのが「鹿加工組合丹波」だ。組合は、「姫もみじ」に精肉、「EG」にドッグフードを卸している。両社への販売価格は、創業時と比べ2倍に引き上げ、組合の売り上げを増やしてきた。

「姫もみじ」の社長でもある柳川瀬組合長は「組合から安く仕入れれば『姫もみじ』『EG』の利益が出るが、それでは組合が回らない」と、引き上げ理由を話す。ただ、引き上げは限界がある。他の処理施設と価格差がなくなれば、組合から買う利点がなくなる。

組合は、捕獲したシカの有効活用を進める市の施策に参画するためにつくったものだ。2600万円の施設整備費を交付する処理施設の事業者公募に応募し、選ばれた。

県の「狩猟期の処理施設搬入促進事業」で、報償金受給手続きが簡略化され、山に埋める手間が省け、猟師は喜んでいる。「EG」は取扱量が増え、恩恵を受ける。蚊帳の外にあるのが、精肉をつくる組合と、精肉を販売する「姫もみじ」だ。

ジビエブームに先駆けシカ肉販売に乗り出した同社は、販売力がある。しかし、組合のシカ肉だけでは需要に応えられず、他産地から精肉を仕入れている。「丹波鹿」の指定があるところは、組合で精肉したシカを販売しているが、大抵は「ニホンジカ」だ。

地域資源を味わう、丹波市の学校給食に納入する400キロ超のシカミンチでさえ「丹波鹿」が足りず、他産地の肉を足して納入せざるを得ない事態が続いている。

補助金込みで年間1300万円ほどの収入で、残滓の産廃処理費、光熱水費、維持管理費、柳川瀬組合長と通年雇用のパート2人、繁忙期のみの非常勤パート4人の人件費を支払う組合に余剰金はない。

「シカを捕らないと、農業被害が減らず、生態系に悪影響を及ぼす。低カロリー高たんぱくで栄養価に富む肉はとてもおいしい。犬にも健康食として喜ばれていて、捨てるのはやはりもったいない。利活用への思いは今も強いが、経営が極めて難しい。組合が倒れたら、山にシカを埋める、もったいない時代に逆戻りするのだろうか。精肉を増やすには引き受け頭数を減らすか、職人を雇うか。うーん、難しい」と、組合長は天井を見つめた。

有害鳥獣の駆除とも関係する捕獲したシカの出口問題は、全国で生じている。専用の焼却施設をつくり、処分している自治体もある。組合だけで解決できる問題ではなく、関係者が知恵を絞る必要がある。

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