精肉は2%、61%は産廃へ シカ肉処理施設の現場 県の手数料ゼロ「ただ働き」 経営圧迫する処理費(中)

2021.03.24
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廃棄物冷凍庫いっぱいに積まれた残滓が詰まった段ボール。1箱に2頭分ずつ入っている=2021年3月15日午後3時10分、兵庫県丹波市氷上町谷村で

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兵庫県丹波市の鹿加工組合丹波の加工処理施設。シカの搬入量が増加する一方で、骨や内臓など産業廃棄物の処分費がかさみ、県の事務手数料でまかなえず、組合の持ち出しが続く事態が生じている。 「2頭さばいたら、この段ボール1箱がいっぱいになる。使える分より捨てる分の方が多くて、これに困っとるんや」と、鹿加工組合丹波の足立利文さん(71)はため息をつく。利活用した後の内臓や骨、皮などの「残滓」。組合の廃棄物用冷凍庫は、産廃処理されるシカの残滓を詰めた箱が山積みになっている。

 

受入れ増ほど不採算に

残滓処理量の推移

受け入れ頭数が増えるほど、「残滓=産廃」が増え、処分費が経営を圧迫する。

昨年度の狩猟期に組合に搬入されたシカのうち、重量比で見ると、残滓が61%を占める。利活用できた39%のうち、精肉はわずか2%の935キロで、ほかはドッグフード用だ。ドッグフードに使っていなければ98%が産廃になる。産廃処分費は1キロ約65円(税込み、経費込み)。標準的な1頭30キロの雄に換算すると、1頭約1100円の処分費がかかる。

今年度の狩猟期の産廃処分費は約201万円。受け入れ頭数が増えたことで、昨年度より35万円あまり増えた。組合の年間支出約1500万円の1割以上を占める。

昨年度組合に搬入されたシカの利用状況

残滓が増えたのは、猟師の報償金受給手続き簡略化の特典を付け、シカを活用する施設への搬入を誘導する「狩猟期の処理施設搬入促進事業」によるものだが、同制度は大きな矛盾をはらんでいる。「捕獲確認書」の発行など、県から組合に、1頭あたり1500円の事務手数料が支払われる。より細かく見ると、「1500円×頭数+産廃処分費を合わせ1施設200万円を上限に支払う」というものだ。

1500円×1334頭で200万円に達し、1748頭だった同組合は今季、約400頭分の手数料を損しただけではない。産廃処分費で201万円を支出しており、「1748頭×1500円分」の対価が発生していない。本来入るはずの手数料は実質ゼロ。収入がなく、人件費などの費用がそっくりそのまま持ち出しになり、組合経営にとって大きなマイナスになっている。

柳川瀬正夫組合長(71)は、「せめて引き取った頭数に応じて手数料を払ってもらわないと、ただ働きでは経営への負担が大き過ぎる」と悔やむ。

多頭数を受け入れ、利活用の貢献度が高い施設ほど損をする制度上の問題点は、県鳥獣対策課も認識している。しかし、「搬入促進事業」は環境省の制度を県が事業化したもので、「環境省の定めの上限を超えて支払うことはできない」と言う。

同組合ともう1施設を除く県内12施設は規模が小さく、手数料+産廃処分費で200万円以内に収まるのに加え、県内他地域では大規模なシカ肉の処理加工施設は新設する話が持ち上がっても反対運動に遭って実現しておらず、問題が、例外的なものにとどまっている。

多頭数を受け入れるとロスが増え、不採算になることは全国的に明らかになっている。市町が直営で加工処理をする、民間に任せ必要経費は全額市町が負担する代わりに売り上げは市に全額納入する、といったやり方で、施策で捕獲頭数増頭を推進する市町が、捕獲されたシカの加工処理費用に責任を持つケースもある。

丹波市は、同組合設立以来、毎年600万円(今年度は別事業と合わせ670万円)の運営費補助を支出し続けている。しかし、県の200万円と合わせ組合収入の半額余りの補助金では、経費増を吸収できず、運営継続が難しくなっている。組合は、ここ3年で肉をさばく職人を除いた事務や管理部門の人件費を、半額以下に圧縮したにも関わらず、だ。

補助金以外の組合の収入は、年間約700万円の精肉卸とペット用原料卸の売り上げだ。引き受け頭数が増えれば、取れる肉の量が増える。売り上げを伸ばせそうなものだが、単純にそうできない特有の事情がある。

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