異例の兵庫県知事選(上) 大役担った丹波県議 党方針に反発、会派飛び出す

2021.08.20
地域

異例の分裂選挙となった戦いを振り返る石川県議=2021年7月28日午前11時16分、兵庫県丹波市氷上町本郷で

8月1日に斎藤元彦兵庫県知事(43)が就任し、20年ぶりに県の新しいリーダーが誕生した。9月には本会議が予定されており、斎藤県政が本格的な船出の時を迎える。候補者の擁立を巡り、県議会の最大会派・自民党が分裂した異例の舞台裏では、丹波地域選出の県議2人が別々の候補者を推し、それぞれの陣営で中心的な役割を担って選挙戦を下支えした。斎藤氏を推し、会派を離脱した石川憲幸議員(66)=丹波市選出=と、党幹事長として前副知事の金沢和夫氏(65)を支えた小西隆紀議員(55)=丹波篠山市選出=に選挙戦を振り返ってもらったほか、丹波地域の自民党員に胸の内を聞いた。3回に分けて掲載する。

―金沢氏の擁立に向け、党として一枚岩になれなかった

2年前の参議院選挙で、兵庫の自民党候補者は3位当選だった。大変苦戦し、維新の票が大きく伸びた。次の知事選も苦戦することになるという思いがあった。維新の松井一郎代表は、自民から金沢氏が出馬するなら候補者を必ず立てると表明していた。私は参院選後、井戸敏三氏に「早く選挙への基盤づくりをしましょう」と進言した。当時は金沢氏を念頭にしたもので、金沢氏本人にも会って組織づくりの重要性を伝えていた。

ところが、本人は一向に動かなかった。副知事だから知事の意向を確認しなければならないという立場は理解できる。だが、知事になりたいのなら、候補者としての意気込みや組織づくりへの意欲を示す必要があるのに、見えてこなかった。本当に選挙に出るのかという不信感に変わった。

そんな中でのコロナ禍。誰しも身動きが取りづらくなっている中、しびれを切らした。維新が強力な候補者を擁立した場合、果たして勝てるのか。逆に言えば、勝てる候補を立てないといけない。そんな渦中で出会ったのが斎藤氏だ。

金沢氏の応援者からすれば、確かにはしごを外したかもしれない。だが、維新に勝てる候補を、と模索した。自民が負けるわけにはいかなかった。

―斎藤氏との出会いは

候補者の選定にあたり、明石市出身で、新型コロナウイルス感染症対策大臣などを務める西村康稔氏から、尼崎市出身で総務省事務次官の黒田武一郎氏を知事選候補者にしてはという考えが聞こえた。西村氏が黒田氏に面会すると、黒田氏にとって金沢氏は総務省の先輩にあたるため、金沢氏と選挙で戦う可能性があるなら「出にくい」ということだった。

斎藤氏との出会いは昨年7月、党所属の参議院議員、末松信介氏の紹介だ。知事候補という意味合いではなく、「良い青年がいる」という話だった。もちろん、われわれも党県議団として知事選の候補者を選定していく段階ではあった。

自分の中では、金沢氏では維新が擁立するかもしれない候補者に勝てるのかという思いがあった。候補になりえるような人に会い、俎上に載せて党の中で議論する一環で斎藤氏に出会った。

斎藤氏は43歳、さわやかな印象を持った。しっかりした考えを持っていると感じた。

―党県議団を離脱し、新会派「自民党兵庫」を立ち上げて斎藤氏擁立に中心的な役割を担った。擁立に至るまでの動きは

昨年12月、井戸氏の退任表明の直後、突然、党から擁立する知事候補を決める「知事問題検討調査会」(14人)が開かれた。事前の通知はなく、2人は欠席していたにもかかわらずだ。

そこで金沢氏や斎藤氏、黒田氏といった候補者になる可能性がある人について議論し、まとめていくべきと考えていたが、井戸氏から「金沢を頼む」と言われていたと思われる党県議団幹部が、「多数決で今から決める」と主張した。「まだ何の議論もしていないじゃないか」と伝えたが、通らなかった。結果、金沢氏7人、斎藤氏5人だった。

こんな決め方はあり得ない。出席していた若手議員も反発した。党県議団の方針に反発したのが会派離脱することになる11人で、のちに13人になった。

―党県議団の重鎮として、井戸氏や金沢氏と長年、パートナーのように付き合ってきた。そのつながりを断ち、斎藤氏の擁立に動いた逡巡は

心安く付き合いをしていただいた中で、斎藤氏を担ぐのなら敵に回すことになる。非常に苦しく、葛藤があった。

それでも動いたのは、閉そく感がある県を変えるには、このタイミングしかなかったからだ。以前から県庁内で職員は物が言いにくい、指示待ちになっていると聞いていた。この流れを変えたい思いが強くあり、井戸氏が退任するタイミングで動くしかなかった。

―これまで井戸氏や衆議院議員の谷公一氏、石川氏を応援していた支持者が、今回の知事選では割れる結果になった。

県では五十数年間、副知事が知事になる流れが既定路線だった。われわれのように会派を飛び出したことに異を唱えるのは当然のことで、仕方がないことだとは思う。

ただ、「維新が推薦している候補」として、大阪のように急進的な改革をするのではと考え、斎藤氏に投じなかった人はいるだろう。今後の仕事ぶりを見ていただき、そうではなかったと誤解をときたい。

―選挙結果の受け止めは

多くの県民は、井戸氏の功績を認めつつも、新しい県に変わってほしいという強い思いがあった結果だと分析する。

丹波市では斎藤氏が金沢氏を約5000票上回った。丹波市6カ所で街頭演説したが、どの場所も100人を超える人が集まった。他市と比べても人口比では丹波市は特別多く、関心も高かったということだろう。
―党県議団との向き合い方は

われわれは、若手議員の意見を聞かない、議論を深めないという党県議団の会派運営に反発しているので、元の鞘に収まることはない。
―斎藤新知事に期待することは

地元で頑張っている人の生活を理解した上で発展していくように配慮してほしい。守るべきところは守ってほしい。

一方で、県民が斎藤氏を選んだのは、停滞感が漂う県を刷新してほしいということ。さらにはボトムアップの県政を期待している。知事自らが各市町に滞在し、昼は仕事、夜は地域住民と語り合う「ワーケーション知事室」には大賛成。地元の悩みや課題を県政に反映させる、フランクな存在になってほしい。

丹波地域関係では、人口減少対策に力を入れてほしい。コロナで丹波への移住に関する問い合わせは多い。移住や人口交流を含め、人がアクセスしやすい地域にしてほしい。そのためには、Wi―Fi設備の充実などにも取り組んでほしい。
―斎藤氏は今回の選挙を支えた県議の中から、副知事を選ぶ可能性もあった。打診があれば引き受ける考えはあったか

それはない。議会はチェック・提言する機関であり、行政は施策を遂行する立場。その中枢が副知事だ。私は議員としての経験は積んできたが、行政としての能力はない。

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