異例の兵庫県知事選(中) 大役担った県議 「コロナ禍の候補者選びを優先」

2021.08.23
地域

7月の県知事選を振り返る小西県議=2021年8月19日午前11時35分、兵庫県丹波篠山市魚屋町で

8月1日に斎藤元彦兵庫県知事(43)が就任し、20年ぶりに県の新しいリーダーが誕生した。候補者の擁立を巡り、県議会の最大会派・自民党が分裂した異例の舞台裏では、丹波地域(丹波市、丹波篠山市)選出の県議2人が別々の候補者を推し、それぞれの陣営で中心的な役割を担って選挙戦を下支えした。結果的に自民が推薦した斎藤氏を推し、会派を離脱した石川憲幸議員(66)=丹波市選出=と、一度は自民県連が推薦候補に選出したものの、党本部推薦には選ばれず、知事選に出馬して敗れた前副知事の金沢和夫氏(65)を党幹事長として支えた小西隆紀議員(55)=丹波篠山市選出=に選挙戦を振り返ってもらったほか、丹波地域の自民党員に胸の内を聞いた。(3回連載、今回は小西議員のインタビュー)

―分裂前、自民党県議団として前副知事の金沢和夫氏を支持した経緯は

昨年8月、県議団(44人)内に知事選検討調査会が設置され、次期立候補者を検討した。私は調査会には入っていなかったので、何が話し合われたかは知らないが、12月の最終決定機関の議員団総会で金沢氏への立候補要請が決まり、同25日には県議団として金沢氏に立候補を要請。今年3月に出馬表明された。

―斎藤元彦氏を推す動きはいつ知ったのか。その時の思いは

昨秋から金沢氏、黒田武一郎氏(総務省事務次官、尼崎市出身)以外の誰かという声はあった。その頃、「斎藤氏に会ってくれ」と言われたが、コロナ禍で大阪との行き来が自粛される中、コロナ対策で重要な役割にある大阪府の財政課長が県議と何回も会いに来ていたのだろう。この時期にうろうろする人物に危機管理能力があるわけがないと思った。会う以前の問題だと思っていた。

―3月25日、会派を離脱した議員(11人)が斎藤氏支援を表明した

コロナ禍の中、斎藤氏を推す時かなあと思った。金沢氏では逃げ切れるだろうかという気持ちは分かる。この国難のコロナの時期にどこの誰だか分からない候補をいきなり連れて来て、コロナ対策が順調にできるだろうか。健康福祉部長に「初めまして」ではいけない。国難の今、するべきことか、が私の根本。コロナ禍では、県民の生命、財産を守るという原点に立ったら、県政を知っている候補にやらせるのが安全パイだと思っていた。

―4月7日、県連選対委員会(19人)で両氏の面談を行った後、金沢氏の票が上回って推薦が決まり、党本部に上申することになった

面談の対応は段違いだった。金沢氏は副知事をしていたこともあり、パパっと答え、斎藤氏は漠然とした回答だった。それは当然だが、今は「やる気」に期待する時期ではない。平時ではいいが、私はパン屋を経営し、日銭の入らない人の気持ちが分かるからこそ、今ではないと思った。

―翌8日、上京して、県連選対が党本部選対議員らに金沢氏推薦の要望書を提出した後、その帰りの途で党として斎藤氏推薦を聞いた

何度も電話がかかってきていたので、篠山口駅から藤田孝夫県連選対委員長に連絡を取ると、谷公一県連会長と電話で協議し、斎藤氏に推薦が決まったとのこと。県連として、さっき、金沢氏の推薦を頼みに行ったばかりで、激怒した。県連の候補者選考規定では県選出国会議員団と、幹部5人が協議するとあるが、電話での聞き取りで、協議として整っていないと思った。

―4月12日、党本部が斎藤氏を推薦することを決定した

コロナの時期に分裂していていいのか。はしごを外すのは、私の人生哲学、政治哲学に合わない。「勝てばええ、選挙に勝たなければ物も言えない」ということもあるが、政治の世界がそういうものかということを若い人や支援者などに思わせていいのか。それで負けても、政治家のあるべき姿を若い人に見せるのが大事。
国会議員は国家的な課題をやるべきで、県民生活、市民生活が黒か白かになることをやってはいけない。黒か白かにできない部分もある。地方は県会議員、市政は市会議員に任せる。役割分担して、地方分権が機能するはず。だから、地方の声が国にちゃんと伝わらなかったら、今回のように判断を間違える。国会議員団は県連が決めたら、それでええと言うのが本来の姿だ。このままでは国会議員との関係が主と従になってしまう。本来の地方分権は対等だ。

―選挙活動中、党推薦とは異なる候補者の応援となった

資金面で陣営は大変だったと思う。「県民党」としていろんな人の力を借りたが、及ばなかった。いままでの知事選とは全く違った。丹波篠山の人はよく理解してもらった。自民党としてビラをまけるかどうかで全然違う。それらは覚悟の上で活動した。議員団活動と選挙活動は別にした。「選挙後に処分されるで」といろんな人から言われたけれど、処分されたくない議員団メンバーは選挙活動しなくてもよいことにした。党に逆らうのは勇気がいるが、会派内にとどまってくれたのは、一定の心情を一つにするところがあったと思う。選挙に勝てるからと言って、はしごを外すようなことをしたくはなかった。政治哲学的な部分が共有できたから、会派内の数は減らなかった。

―選挙結果の受け止めは

県民の意思は斎藤氏だった。民意だからしようがない。地元でも刷新という声を聞いたが、今ではないということをよく理解いただいた。継承するという意味で金沢氏に票を入れてくれたというより、空白期間をつくらない、ちゃんとコロナ対策を考える、との視点で金沢氏に投票した有権者が多かったのではと思う。

―金沢氏を応援したことで、8月7日、県連から厳重注意処分を受けた

県議団33人中17人が処分された。受け止め方はそれぞれだが、会派運営と処分は別。離党を求める議員もいるが、はしご外しをしない人を追い出してしまうような自民党はなんやという話だ。本来のあるべき姿の自民党を守るために金沢氏を支持した。

―9月議会が始まるが、会派・自民党兵庫との向き合い方は

心情的にも物理的にも一つになることはなく、このままだろう。一緒にできることはするが、維新色が強い政策が出てきたときにどう対応するのだろうかと思う。

―斎藤新知事へ望むことは

極端に都市政策に重きを置いた政策に注意したい。全否定ではなく、是々非々で。コロナ対策については、懸命にやってもらえるようアドバイス、支援する。

―分裂したことによる衆院選への影響は

全く影響なしとはいかないだろう。例えば、支援者からもこれまでと同じように支援依頼しても「この前までけんかしといてなんやねん」という声が出て来て当たり前。影響はゼロではない。今回の騒動は「勝てる候補」から始まった。勝てる候補とは何か。突き詰めると、「勝たせなければならない候補」でないといけない。

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