「灰屋」に脚光 焼土肥料作る土壁小屋 住民と大学生らが再建

2021.10.15
地域

灰屋の再建作業に取り組む「おかの草刈り応援隊」のメンバーや大学生ら=2021年9月23日午前10時34分、兵庫県丹波篠山市矢代で

兵庫県丹波篠山市、丹波市の有志らでつくる「丹波地域ビジョン委員会」内のグループ「おかの草刈り応援隊」(14人)が、草木などを燃やして焼土肥料を作る土壁小屋「灰屋」を再建するプロジェクトを、丹波篠山市岡野地区で始動させた。地元住民や同市内を拠点に活動する学生らと共に修復し、完成した灰屋で作った肥料を、無農薬野菜の栽培に生かす。今年2月に「日本農業遺産」に認定された同市の黒大豆栽培システムで、灰屋は遺産価値を構成する要素の一つとして評価された。循環型農業を可能にするシステムや、農村景観のシンボルとしての外観などが、脚光を浴び始めている。

昨年度に結成した同応援隊は、同地区内に多く現存する灰屋を生かし、刈った草の有効な活用方法を模索している。今年3月には、地区内の灰屋を巡るイベント「灰屋ウオーク」を企画。神戸や宝塚など都市部からの参加者も多く、珍しそうにカメラのシャッターを切ったり、「子どもの頃はいっぱいあったのになあ」と懐かしんだりと、それぞれが楽しんだ。

再建プロジェクトは、灰屋を調査している神戸大学大学院農学研究科特命准教授の清水夏樹さんが旗振り役となり、始動。まずは同応援隊のメンバーや大学生らの手で、同市矢代集落で放置されている灰屋1つを再建する。その灰屋で作った焼土肥料を、同地区地域おこし協力隊員の杉田かなえさん(34)の農場(17アール)に入れ、野菜の無農薬栽培に生かす考え。収量や成分などのデータも調べる。

9月のプロジェクト始動後、2回目の作業日となった9月23日には、同応援隊のメンバーのほか、神戸大、京都外国語大の学生ら約10人が参加。わらを混ぜた泥を使い、土壁に使うブロック作りに挑戦した。ブロックを積んだり、土壁を塗ったりする作業に励む中で、互いにアドバイスを送り、試行錯誤を重ねながら再建作業に取り組んだ。

泥をかき混ぜる作業に熱心に挑む大学生に、地元住民が「人生、底なし沼も、ようけあるからな」と声を掛けて笑いが起きるなど、和気あいあいとした雰囲気。同応援隊隊長の谷田又次さん(73)は「昔の人も農作業の合間に、こうしてみんなで知恵を出し合いながら灰屋を作っていたんだと思う。先人に思いをはせながら作業をしていけたら」とほほ笑んでいた。

清水さんは、「灰小屋で作った焼土肥料を使うことで、窒素やリン酸、カリウムが畑に多く含まれ、土がやせなくなる。土壌環境を保つための昔の人の知恵だったんでしょう」と言い、「肥料を地域の中で調達することは、環境負荷の軽減に配慮した『環境保全型農業』にもつながる」と力を込める。

ただ、灰小屋を本格的に活用した農業の実践には手間暇が掛かるため、普及には、労働力の面で課題があるとし、「栽培した米を『灰屋米』のような形でブランド化したり、焼土肥料を作るまでの過程を体験するイベントを催したりして、何かしらの付加価値を付ける必要がある」としている。

【灰屋】…戦後、化学肥料がなかった頃に焼土肥料作りをしていた伝統的な土壁小屋。「灰小屋」と呼ぶ地域もある。農家が手作業で瓦や石を積み上げ、わらを混ぜた土で三方を囲むように壁を作る。肥料は、小屋の中で刈草や土、枝、わら、落ち葉などを何層にも重ね、燃やした灰をふるいにかけて作る。特産の黒大豆や山の芋の栽培に重宝されてきた。50年ほど前までは全国的にも多く見られたが、昭和40年代の土地改良事業や化学肥料の普及が進むにつれ、取り壊されるケースが多くなった。市によると、市内には現在、約240の灰屋が点在している。農業遺産認定を受け、今年6―8月に調べた。ほとんどが物置小屋となっており、肥料作りに使われている灰屋は数カ所しかないという。

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