宮中祭祀の「菅笠」 素材を地方で田植え 梅雨明けに刈り取りへ

2021.10.30
地域

菅の苗を植える保存会の会員と留学生=2021年10月24日午後零時11分、兵庫県丹波市青垣町栗住野で

大嘗祭や伊勢神宮の式年遷宮に菅笠(すげがさ)を納めている大阪市のグループが、兵庫県丹波市青垣町の水田でこのほど、菅細工の材料となる菅の田植えをした。大阪市指定無形文化財の伝統工芸を発展させるとともに、後世に伝えていく取り組みの一つで、青垣を生産拠点に、今年度から本格栽培を始める。

大阪市東成区深江の「深江菅田保存会」。会員の石川健二さんが丹波市青垣町栗住野に農地付きの別荘を購入。保存会の顧問を務める元大阪市東淀川区長の金谷一郎さん(大阪経済法科大学客員教授)が、同町佐治でまちづくりに取り組む佐治倶楽部の事務局、出町愼さん(39)と、まちづくりセミナーで出会い、土地と人との縁ができたことで、青垣を生産場所に決めた。

この日植えたのは2アールほど。保存会メンバーと、関西大学の中国人留学生らが参加。木製の田植え定規を使い、目印に添って手で一本一本苗を植えていった。水を張った状態で越冬させ、梅雨明けに刈り、天日干しにして乾燥させる。隣の田んぼで2年前から試験栽培をしており、栽培面積は全体で10アールほどになる。

保存会の山路幸子会長(72)は、「笠だけでなく、円座やコースターなどいろんな細工に使われる。試験栽培で良質の菅が育つことが分かった。人の縁で青垣に来れた。地元の人にも興味を持ってもらえれば」と期待する。

刈り取りに参加したことがある出町さんは「大きな稲というより、ススキに似て葉がしっかりしている」と言い、「青垣には国指定選択無形文化財の丹波布がある。広域的な伝統工芸ネットワークでつながっていけたら。交流し、地域と関わってくれる人が増えればうれしい」と話している。

【菅】カヤツリグサ科の植物。笠を編むには幅3センチ、長さ1・5メートルほどが必要。幅が狭いものは鍋敷きなどに加工する。

大阪市の指定無形文化財に

深江の菅笠(提供)

深江の菅細工は、現在の奈良県桜井市の職能集団が約2000年前に深江に移り住んだのが始まり。江戸時代に菅笠が伊勢参りの必需品として深江の名産品となった。近代になり廃れたが、技術は深江に伝わり、現在も深江菅細工保存会(大阪市指定文化財・無形文化財工芸技術保持団体)が、菅細工の工芸品の製作を続けている。平成、令和の大嘗祭で天皇陛下が使用した「御菅蓋」と呼ばれる特別な菅笠も納めた。

深江は住宅地で田んぼが少なく、保存会は約20平方メートルほどの水田で栽培し、足らずを府外から購入していた。将来にわたって安定的に材料を確保するために自家栽培を始めた。

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