キャンプは「一泊一善」 会社社長が提案する楽しみ 野営の学びを社業へ

2022.01.04
地域

山頂でソロキャンプ。カメラと三脚を持参し撮影した、自身のテントと 星空(廣瀬さん提供)

兵庫県丹波市氷上町の廣瀬昇司さん(52)は、30年来のキャンプ愛好家。仲間とのグループキャンプ、家族で楽しむファミリーキャンプ、単身で過ごすソロ(単身)キャンプ、場面に応じて使い分けてきた。会社社長でもあり、リフレッシュのためだけでなく、野外生活での学びから環境分野に事業を広げたり、一人で考えをまとめるのにソロキャンプに出掛けるなど、公私にわたってキャンプを楽しむ筋金入りのキャンパーだ。

キャンプの魅力を語る廣瀬さん。テーブルといすは30年、ランタンとバーナーは20年来の友=2021年12月3日午後3時11分、兵庫県丹波市氷上町新郷で

最もいれ込んでいた20代後半―30代前半にかけては、キャンプ先のテントから出社し、テントに「帰宅」するといった具合で、月の半分くらいキャンプ生活を送っていた。

社会人1年目の夏休みに友人と出掛けた福井県の海岸キャンプは散々だった。ホームセンターで買った安物のテントは暑く、眠れなかった。兵庫県姫路市のアウトドアショップと出合い、快適なキャンプの道が開けた。「用具が全然違った」。その時提案された用具は、一部上場企業「Snow Peak」(新潟県三条市)の前身、「ヤマコウ」のもの。30年たった今もその時に買ったテーブルやいすは「現役」だ。

始めた当時は、キャンプ場が少なかった。今のようにキャンプ不可、たき火不可と明示されているところも少なく、作家のC・Wニコルさんに憧れ、「星が降り注ぐ河原でたき火」を楽しんだ。

丹波市青垣町内の河原で野営した時は、登校中の小学生にあいさつをされ、同市柏原町内の山裾ではシカの群れにテントを取り囲まれ、面食らった。

29歳で家業の「広初サービス」に入社。経営に関する著書も多い「Snow Peak」の山井太社長(現在は会長)に感化され、同社の企業理念の一部をもじったものを自社の理念に取り入れた。

夜にテントを張った場所が、翌朝起きて周りを見ると、不法投棄のごみの山だったことが、自社で産業廃棄物事業を手掛けるきっかけになった。運送業がメインだったが、キャンプを通して芽生えた環境に貢献したい思いを形にした。

会議を開放的に、違う刺激を受けながら意見を出し合おうと、「Snow Peak」が提案した、キャンプ用の設備を使った屋外打ち合わせも取り入れた。時には、たき火の炎を眺めながら商談したことも。「お客さんに対しても、僕はこういうスタイルです、と分かってもらった方が伝わるものがあるんじゃないかと考えた、と言うのが、大義名分。『キャンプばっかりして』と怒られますから」と笑う。雪を求め滋賀県の山中へ行き、1―3月の厳冬期に雪の中で経営計画書を書く。今は、キャンプが仕事を考える場所になっている。

星が出ていて、炎を眺めていると、それだけで楽しい。眠くなればテントで横になればよく、時間の縛りから逃れられる。青年会議所や商工会青年部の先輩や仲間と野外でバカ話をしたり、夢を語り合えたことは良い思い出。山梨県の西湖から見た、富士山頂を目指す登山客のヘッドライトがつくる光のラインの美しさは、生涯忘れ得ぬ光景だ。

「山ガール」という言葉がはやって以降、女性キャンパーが増えた。子育てが一段落したからと、50―60代で始める人が増えたとも感じている。コロナ禍のアウトドアブームで、キャンプサイトの予約は取りづらくなり、「誰もいない所」へ行くのは難しくなった。それでも、キャンプ愛好家の増加は、「一緒に楽しめる人が増えることなのでうれしい」と喜ぶ。「自然環境を大事に、自然の中で楽しませてくれる道具を大事に、一過性やファッションでなく、キャンプを好きな気持ちが、長続きすればいいですね」と、ほほ笑む。

「箸一つ使い捨てにしない」を実践している。泊めてもらった場所への「恩義」を返すため、来た時よりも美しく、周辺掃除をして帰る「一泊一善運動」に賛同し、自然の中で気持ち良い時間を過ごしている。

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