古典技法で重伝建撮影 「カロタイプ」で100枚計画 米・NYで活躍の芸術写真家

2022.04.20
地域

カロタイプを用いた写真撮影に使う「ビューカメラ」を手にする栗田さん=2022年4月10日午後2時37分、兵庫県丹波篠山市福住で

兵庫県丹波篠山市の旧福住小学校を活用した地域交流拠点施設「SHUKUBA」(同市福住)でフォトギャラリーを構える、ニューヨークで約30年間活躍した芸術写真家、栗田紘一郎さん(79)が、19世紀の写真技法「カロタイプ」を用いて、福住地区内の歴史的建造物などを数年かけて100枚ほど撮影するプロジェクトを始めた。カロタイプは「日本でほかに誰もやっていないのでは」(栗田さん)というほど希少な技法。撮影した作品は福住の町中で展示したい考えで、古典技法の伝承を目指す。

国内はおろか、欧米でもカロタイプ技法を用いた撮影をしている人はほぼいないという。デジタル写真とは違う、特有の面白さや、味わい深さがあると言い、「現代の人たちは利便性を享受する半面、感性や感覚といった、大事なものを忘れてしまっている気がする。芸術を表現するために作られた技法の歴史と文化を継承したい」と話す。

被写体は、国重要伝統的建造物群保存地区の福住の歴史的建造物のほか、市内各地の由緒ある建造物、四季折々の風景などを考えている。

撮影した作品は、さまざまなジャンルのアーティストの作品と共に、福住地区内の古民家や神社を含め町中に飾り、地区全体を美術館と捉えられるような作品展をしたいと考えている。

「福住に多く残る文化財を見てもらうきっかけにもなる。アート文化は人が多い都会に集中しがちで、地方からわざわざ見に行かないといけないが、もっとローカルに分散してほしい。せっかくここに落ち着いたのだから、福住をアートのまちにしたい」と語る。

栗田さんは、東京で約20年間、広告写真家として活動した後、芸術写真家に転身。ニューヨークやパリ、ロンドン、ベルリンなどで個展を開き、高い評価を得た。作品はフランス国立図書館やアメリカ最高峰の美術大「ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン」で展示したほか、アメリカの高級日刊紙「ニューヨーク・タイムズ」で紹介されたこともある。

26日―5月29日まで、SHUKUBA内のギャラリー「Fotozumi」で作品展「Slow Photography」を開く。栗田さんがカロタイプ技法で撮影してきた約20点を展示する。5月21、22日午後1―5時には、カロタイプ技法の実演を行う。

制作に使う紙ネガ(下)と印画紙

【カロタイプ】 1841年、イギリスの科学者ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットによって発明された写真技法。紙の繊維が光を拡散させ、作品には独特の芸術的効果が生まれる。栗田さんが実践している手法では、まず、1枚の雁皮紙に、ゼラチン、硝酸銀の溶液を、それぞれ塗って乾かす。さらに、ヨウ化カリウム溶液に浸して水で洗い流した後、再び硝酸銀溶液に浸す。浸した雁皮紙を、独立したファインダーを持たない「ビューカメラ」に差し込み、撮影する。酸性没食子硝酸銀溶液に浸し、画を浮かび上がらせて紙ネガが完成する。次に作るのが印画紙。泡立てた卵の白身に塩、硝酸銀、デンプンなどの有機物を加え、別の雁皮紙に塗る。その後、硝酸銀溶液に浸して乾かすと完成。紙ネガと印画紙を重ね、暗室内で光に当てれば、印画紙に画像が焼き付く。1枚の作品が完成するまで最低3日はかかるという。「カロ」はギリシャ語で「美しい」を意味する「kalos」が語源といわれる。

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