地元っ子集う謎の「ローラー公園」 秘密は創業100年の老舗 滑り台撤去も名前残り

2022.06.02
たんばの世間遺産地域

八上っ子が集う「ローラー公園」。今は鉄棒しかない=兵庫県丹波篠山市糯ケ坪で

当たり前にありすぎるけれど、住民が大切にしていきたいもの「世間遺産」―。丹波新聞では、兵庫県丹波地域の人や物、景色など、住民が思う”まちの世間遺産”を連載で紹介していきます。今回は丹波篠山市八上地区にある「ローラー公園」です。

明智光秀と地元武将が激戦を繰り広げた八上城跡が残る丹波篠山市八上地区。世間遺産のネタ探しに地元住民と話していると、「世間遺産? やっぱり八上城かな」と予想通りの答えが返ってきた。そこで、世間遺産の趣旨を説明し、「何気ないけれど、地元住民しか知らない『ええなぁ』と思うものなんです」と伝える。すると、「あぁ、それやったら『ローラー公園』なんかどないや?」。その不思議な呼び名に、心拍数が上がるのを感じた。

その小さな公園は、八上地区糯ケ坪にある住宅地の中にぽつんと存在する。今、この公園には鉄棒しかないが、かつてローラー滑り台があったことから、子どもたちの間では「ローラー公園」という名で通っている。付近の住民は、「ローラー公園知らんかったら、八上ではもぐりやで」と笑う。

かつて設置されていたローラー滑り台(市提供)

夕方になると公園に子どもたちが吸い込まれていく。近所の子もいれば、自転車で数十分かけてやってくる子もいる。地区によっては学校が終わって家に帰り、公園にたどり着くのが午後4時半ごろ。帰宅時間も考えると滞在できる時間はわずかだ。

それでも子どもたちが集う秘密は公園の近くにある「小野旭堂」。創業約100年の”老舗”にはさまざまな駄菓子が並ぶ。この値上げの時代、最も安い駄菓子は10円に維持している。

ローラー公園は、財布や小銭を握りしめた子どもたちが小野旭堂で思い思いの駄菓子を買い込み、舌つづみを打ちながら遊ぶ場所となっている。

 

かつて設置されていたブランコ

同店の小野健二さん(44)は、「大きい子が小さい子と一緒に遊んだり、発表会の前には歌の練習をしたり。人数のピークは卒業式前。6年生が最後の思い出作りなのか、寒い中でも集まる。ええなぁと思って見ています」と目を細める。

市によると、昭和62年に宅地として開発した際にできた公園で、正式名称はない。当初はブランコや滑り台があったが、老朽化のため、ブランコは10年以上前、滑り台は2020年度に撤去した。担当課は、「撤去のために公園に出入りしていると子どもたちの姿があった。親しまれた滑り台だけれど、老朽化していて危ない。『ごめんね』と思いながらの作業でした」と振り返る。

出身の男性(32)は、「昔は小野旭堂の他にも駄菓子屋があって、みんなで駄菓子を買って、公園で食べながらしゃべるのが楽しみだった。懐かしい」と回顧。滑り台が撤去されたことについては、「知らなかった」と驚いていた。

「駄菓子を1個だけ買う子がいたら、ついつい『おなかすいてへんか?』と、おまけをつけてしまう。利益はほとんどありません」と小野さん。今、小野旭堂には、大人になった”元子ども”が立ち寄り、昔は1個だった駄菓子を”大人買い”していく。「『おっちゃん、昔はよく来たで』と言ってくれるのがうれしい」と笑う。

ちなみに取材中に出会った子どもに、「この公園なんていう名前?」と聞くと、「ローラー公園。あ、でも最近は鉄棒公園って言ってます」。いつしかローラー世代、鉄棒世代で年代がわかるかも。

名前は変わりつつも、八上っ子にとって憩いの場であることは変わらない。かつて当たり前のように見られた子どもたちと駄菓子屋、そして公園の関係。まぎれもない世間遺産だ。

 

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