ホテル差し止めで控訴 周辺住民3人が地裁判決に不服 元副市長「景観制度骨抜きに」 市長「残念でならない」

2022.09.08
地域

控訴したことを会見で発表する金野さん=兵庫県丹波篠山市黒岡で

兵庫県丹波篠山市の城下町内で予定されているホテル「ルートイン」の建設計画を巡り、同市の元副市長、金野幸雄さん(67)ら周辺住民3人が景観や生活環境の侵害を理由に、市の開発許可の差し止めを求めた訴訟で、金野さんらは5日、訴えを却下した神戸地裁の判決を不服として大阪高裁に控訴した。金野さんは市内で記者会見し、「住民の景観利益で『原告適格』を認める画期的な判決だったが、現時点で重大な損害が生じるとは認められずに却下されたため、条例違反などの中身については審理されていない」と主張。「開発するなと言っているのではなく、条例で開発してはならない場所なのだから適地に誘導すべきだったということ。景観の価値をもう一度捉え直してもらうため、引き続き頑張っていく」とした。

8月23日の地裁判決では、原告3人を「(景観の)恵沢を日常的に享受している者というべき」とし、景観を理由に裁判を起こす権利がある原告適格を有すると認めた一方、開発が許可されていない現状では、計画中のホテルが「重大な損害が生じる恐れがあるとまでは認められない」として訴えを却下した。

原告団の奥村太朗弁護士らは、「行政訴訟の場合、まず違法かどうかの前にいくつかハードルを越えなければならず、その代表的なものが原告適格で、それはクリアした。地裁では『重大な損害がない』とされたが、開発許可が違法か適法かは判断されていない」と指摘し、▽用地は条例で景観保全を目的に建築面積1000平方メートルを超える施設を建ててはならないのに、市長特例により認めるのは裁量権の逸脱、濫用▽建設予定地内にある市有地を条例に反して土地所有者(西日本JRバス)に無償譲渡している▽市民への説明が不十分―などの本案について高裁で審理を求めるとした。

また、開発許可が出た場合は、許可の取り消し訴訟へと移行する予定で、「取り消し訴訟になれば条例違反などの本案について争える」とした。地裁判決で認められた原告適格が高裁では認められない可能性があることについては、「(地裁で)市は原告適格がないと主張していたのに、市長は記者会見で『市の方針に合致しており、意義がある』と言われている。原告適格については『争わない』とならないとおかしい」とした。

「篠山景観訴訟―土地利用ルールを全国へ」と銘打った会見で、金野さんは、「せっかく景観の先進都市と言える制度があるのに、なぜ自分で破るのか理解できない。今回の特例を認めれば、他の事業者も今後も市長の判断で認めてほしいと言ってきて制度が骨抜きになる」と主張。「市長とは一緒にやってきた時期もあるため、良いことも知っているが、今回の件はいけない」とした。

金野さんらは13日午後7時から市民センター(同市黒岡)で、訴訟についての市民向け説明会を開く予定で、「原告適格が認められた、ここからがスタートと思っている。市民にも十分理解してほしいし、外向けにも発信していく」と話している。

一方、酒井隆明市長は、「神戸地裁で3年間にわたり丁寧に審理された結果、ホテル計画が景観に配慮されているとの結論が下され、これは明白だと思われる。控訴され、いつまでも争われるのは残念でならない」とした。

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