洞穴に「お不動さん」 病気平癒や降雨願う

2022.09.05
たんばの世間遺産地域歴史

 当たり前にありすぎるけれど、住民が大切にしていきたいもの「世間遺産」―。丹波新聞では、兵庫県丹波地域の人や物、景色など、住民が思う”まちの世間遺産”を連載で紹介していきます。今回は丹波市山南町坂尻地区の洞穴に鎮座する、雨ごいや病気平癒祈願の歴史がある「お不動さん」です。

集落最端の民家から約2・5キロ、林道を山奥に向かって車で走ること約10分、不動明王が祭られた洞穴の麓にたどり着く。山の斜面の小高い所にぽっかりと口を開けた洞穴の内部は、幅約8メートル、奥行き約4メートル、高さ約5メートル、昼なお暗い。その中央に、いかめしい形相の不動明王の石像(高さ約60センチ)が鎮座している。隣には役行者の石像(高さ約55センチ)も祭られている。

山腹にぽっかりと口を開けた、お不動さんが祭られている洞穴

山南町誌に、「製作年代や創立については不明である。日照りが続くと、(不動明王)像を谷川に浸した後、護摩を焚いて降雨を祈った」とある。

現在も信仰は緩やかに続いている。村の老人会が年2回、掃除を行っているほか、毎年8月には、「不動さん参り歩こう会」を催し、村の老若男女が1時間ほど歩いてお不動さんを訪ね、花や線香を手向け、般若心経を唱えて村の安泰を祈っている。

こんな話が伝わっている―。村の古老(95)は、「祖母(明治18年生まれ)から聞いた話だが」と前置きし、「江戸後期から明治中期に行われた風習として、村人が大病や伝染病を患うと、あの洞穴で隔離生活を送った。お不動さんに祈りを捧げながら、病が癒えるのを待ったのだと。その人たちがその後、無事に村に帰れたのかどうか、今となっては知る由もない」

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