無償で訪問し介護 キリスト教系宗教法人 医療福祉分野の慈善事業で

2022.10.03
地域


訪問介護事業を廃止し、看護だけでなく生活全般の支えを含めたより幅広いサービス提供を始めた「惠泉マリア奉仕会 丹波事業所」のスタッフたち=2022年9月26日午後零時半、兵庫県丹波市氷上町大崎で

「惠泉マリア訪問看護ステーション」(兵庫県丹波市氷上町大崎)が9月末で医療保険、介護保険制度下の訪問看護事業を終え、10月1日から新たに医療・介護保険制度にとらわれない「惠泉マリア奉仕会 丹波事業所」として、看護だけでなく、介護や生活支援を含むより幅広い訪問サービスの提供を始めた。株式会社経営の営利事業から、キリスト教系宗教法人の医療福祉分野の慈善事業になった。運営経費や職員人件費の全額を宗教法人が持ち、利用者に負担は求めない。国の保険制度下では、制度の狭間に陥り、手が差し伸べられない人がいることや、提供できるサービスに制約があり、理想とする看護が実現できないとして、保険制度を使わない。制度の枠にとらわれない全人的ケアの実現を目指す。全国的にも極めてまれなケースだ。

株式会社ヴィタポート(北海道余市町)傘下から、宗教法人日本キリスト召団(同、以下召団)に移った。召団の設立者が、同社の水谷幹夫会長(74)という関係性。

例えば若年者が末期がんになった場合、医療費の自己負担が払えず、利用を控えるケースや、訪問先の家の片付けや洗い物をした方が衛生的になり、健康回復につながりそうな場合でも、家事援助は訪問看護の範囲に入らないため、手を貸せないといった現行制度や規制へのジレンマがあった。召団が新たに「症状への対処に終わらない、全人的ケア」を事業化。同社の丹波を含む3つの訪問看護事業所を、召団事業に移管した。

「奉仕会」が提供するサービスは、療養上の世話のほか、▽家庭看護・家庭介護のアドバイス▽家の周りの草刈り▽簡単な大工仕事▽除雪▽整理整頓など生活環境の改善▽医師の指示に基づく医療行為▽地域の人同士が助け合う力の回復の働き掛け―など。

訪問は看護師に限らず、サービス内容に応じ、ヘルパー、リハビリスタッフ、ボランティアスタッフらが対応する。通常は2人訪問。家族と共に看護、介護する考えで、独居者は事業の対象外。電話相談、相談面接を経て利用が始まる。対応時間は平日の午前9時―午後4時。

公的保険では1―3割の自己負担のほかは、診療、介護報酬を支払機関や保険者に請求するが、保険の枠外のため、請求しない。保険制度内なら生じる自己負担も、保険を使わないため、生じない。費用の全額を利用者に求めることもできるが、召団が全額費用負担し、利用者には請求しない。奉仕への支援金は拒まない。宗教法人の事業だが、キリスト教への勧誘はしない。

加藤久美子所長(58)は、「これまで以上に、皆さんの生活に寄り添った看護を提供したい。家族の看護、介護をお支えしたい」と話している。

同召団は1982年設立。同社は2005年設立。全国で多様な事業を展開しており、丹波市内では宿泊業、丹波の宿恵泉(春日町平松)を経営。丹波の訪問看護ステーションは、2017年1月に設立された。

全国150カ所以上の拠点があり、制度の狭間にある人たちを支える活動もしている、訪問ボランテイアナースの会「キャンナス」(神奈川県藤沢市)の菅原由美代表は、「私たちの活動は有償ボランティア。利用者負担「ゼロ」は聞いたことがなく、興味深い。『子ども食堂』をする教会があり、そう考えるとスケールは大きいが、不思議はない。教会の財政がしっかりしているんだろう。今後ますます既存制度だけで対応が難しい人が増えるので、救われる人が増えることはありがたい。志だけでなく、スタッフにも労働対価が支払われ、職業として成り立つのなら素晴らしい」と話していた。

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