獣害の「リアル」知る 被害地域の”せめぎ合い”学ぶ 6大学連携する全国初の試み

2022.12.10
地域自然

学生たちに獣害被害の現状を伝える荻野組合長(中央)ら=2022年11月19日午後2時18分、兵庫県丹波市青垣町東芦田で

深刻化した野生鳥獣による農林水産業被害や生態系被害などの地域課題を解決するため、科学的な野生動物管理を担う専門人材の育成を目的に、兵庫県立大学ほか6大学などが連携し、全国初の試みとなる野生動物管理のための専門人材育成プログラム「野生動物管理コアカリキュラム」を展開している。このほど、同県丹波市にある同県森林動物研究センターから獣害対策支援を受けている、地元の同市青垣町東芦田をフィールドに現地実務講習が行われた。大学生40人が集まり、同集落の農家から獣害の被害状況や防除対策を聞き取ったり、農地や防護柵を見て回ったりし、農家と野生動物とのせめぎ合いを肌で感じ、問題改善への提案を行った。

現地実務講習は、学生が住民から現状を聞き取った上で、獣害対策の計画を立案する演習の一環。学生たちは8班に分かれて活動した。

東芦田農業生産組合の荻野一喜組合長(68)は、「収穫間近の農作物がシカやイノシシに一晩で全滅させられることもある」と表情を曇らせ、被害の多さに、耕作を放棄した農地がいくつもあることを伝えた。また、獣害対策の中心はワイヤーメッシュの柵や電気柵で、ワイヤーメッシュは経年劣化で傷んだり、法律上の観点から設置できない個所があったりすることや、電気柵は効果抜群だが、雑草などによる漏電管理に苦慮しているとし、「小まめに見回り、維持管理していくことが肝」とした。

同組合では、3年前から集落の住民に獣害の状況を聞き取るアンケートを毎年12月に行っている。同センターがアンケート結果を集計、それらのデータをもとに、3月には次年度の獣害対策を話し合う会合を開いている。荻野組合長は「徐々に防護柵の点検に協力してもらえる人が増え、住民の意識も高まってきている」と報告した。

山中の防護柵を見て回る農家と学生たち

また、学生らは防護柵の破損個所や野生動物の痕跡、被害農地の状況なども見て回った。田畑の周囲に張り巡らせたのり網の数カ所に蛍光ピンクのテープが張られていることの効果を質問すると、農家が「シカが嫌がる色」と答えたが、大学教員は「シカの目はモノクロなので、効果は全くない」と伝えていた。

農地と山林の境に張り巡らされた金網の防護柵を見回った際には、農家が「イノシシは防護柵の裾の隙間に鼻を突っ込んでまくり上げ、侵入してくるので、裾が地面を這うようL字になる増設部品を取り付けた。これは効果がある」「シカは助走なしに高さ2メートル10センチの防護柵を跳び越えるので、侵入個所の柵をさらに80センチ高くした」などと現物を前に学生たちに紹介していた。

積極的に聞き取っていた東京農工大2年生の中山朝葉さん(20)は、「授業で学んではいたが、現場に足を運ぶと、イメージと大きく違い、想像以上に防除や管理に人手、時間、お金が掛かることが分かった。農家の方々の農地を守りたいという強い熱意も感じた」と話した。

現地実務講習の指揮を執った兵庫県立大の横山真弓教授(55)は、「獣害は、場所が変われば中身や課題も変わるので、今後、全国各地の現場でフィールドワークができる環境を整えたい。大学間が連携することで、多様な学びのチャンスが生まれる。若者たちの柔軟な発想力で、これからの超高齢化社会の農村づくりを考えてもらいたい」と期待している。

【野生動物管理コアカリキュラム】 農林水産省の「鳥獣被害防止総合対策推進交付金」を受け、宇都宮大、岐阜大、東京農工大、兵庫県立大、山形大、酪農学園大の6大学のほか、1専門学校、1社団法人、1民間事業者、環境省が連携し、東京農工大が中心となって展開。オンデマンド講義(5科目30学修項目)と現地実務講習(1科目3学修項目)からなる。オンデマンド講義では、野生動物保全・被害管理学や鳥獣・環境関連法規・政策などを学んでおり、約180人が受講。今年度は、将来の資格制度につながる教育プログラムとして試行的に実施している。

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