「にぎやかな過疎」って? 人材づくりが鍵に 明治大・小田切教授が講演

2023.02.09
地域

にぎやかな過疎について語る小田切教授=兵庫県丹波篠山市黒岡で

兵庫県丹波篠山市は、市内の旧篠山町地域が過疎地域に指定されたことを受け、市民センターで過疎地域のまちづくりを考える講演会を開催。明治大学の小田切徳美教授が「にぎやかな過疎をめざして」と題して講演した。要旨をまとめた。

まず私たちが当たり前と考えていることは、当たり前ではないということを知ってほしい。私たちはいつの間にか首都は人口が増え、地方は過疎化するのが当たり前と考えているが、実はそんなことはない。

1960年に日本では人口の18%が東京に集まっていたが、2010年には29・2%、現在は30%を超えている。ところが他の国は違う。およそ半世紀でロンドンやベルリン、ニューヨークの人口はむしろ減り、ローマやパリでも0・5ポイント増えたのみ。日本だけが大きく増えている。

日本も国や地方の努力によって現状を変えられるということだ。

◆人口減に対応し 新たな仕組みを

過疎地域では、人(過疎化)、土地(耕作放棄地の増など)、ムラ(集落機能の停滞)の空洞化が起こっている。地方部とは、そもそも非常に少ない数の人が広大な空間の面倒を見ている場所。人口密度が低いのは過疎化の結果ではなく、そもそも人口密度が低い。それは農林業など土地利用型の産業があったからだ。

その土地で協力して生き抜いていくために、先祖たちは「集落」という仕組みをつくった。集落が過疎化によって機能しなくなってきているが、「人口が減少する=地方が消滅する」ではなく、減少するならば、私たちがそれに応じた仕組みをつくり、次の世代に支持されるようにすればいい。これが「地域づくり」。人口が少ないなりに明るく楽しくできないか、ということでもある。

具体的にどのようなことをすればいいか。それは、▽人材づくり▽コミュニティーづくり▽しごとづくり―の3つ。特に人材づくりは重要で、これまでも国の過疎債を使ってしごとやコミュニティーの建物づくりなどが行われてきたが、決定的に欠けていたのは人材だった。

◆鏡効果で宝発見 高校の魅力化も

「人材」というとバリバリ活動している人、アイデアを持っている人とイメージしてしまうが、地域の問題を自分の問題として意識できる人が人材だ。

人材づくりには、かつての公民館活動や青年団の活動などが重要な役割を果たしてきた。文科省もこれに気付き、公民館事業の再建を掲げている。

また、都市と農村の交流で、外から来た人が地域の宝を発見してくれることはないだろうか。これを「鏡効果」と言う。交流の中で子どもたちが田舎料理を食べて言った「おいしいね」という一言で元気になったおばあちゃんが全国にはたくさんいる。これも鏡効果だ。

また、高校の魅力化も人材づくりにつながる。島根県で魅力化に取り組んだ高校と取り組んでいない高校でアンケートを取ると、一番違ったのは、「先生や親以外に気軽に話せる大人がいる」という項目。地域の高校生が、話せるおじちゃんやおばちゃんをつくっている。非常に重要な人材のネットワークだ。これらは地道な積み重ねが必要で、どうしても地域づくりには時間がかかる。

ただ、丹波篠山はすでに「にぎやかな過疎」になりつつある。

◆「田園回帰」は 一気に噴出へ

都市住民の「田園回帰」や移住が増えているが、丹波篠山でも増えている。この動きは非常に大きな勢いで、コロナ禍で一時停滞したものの、マグマのような大きなエネルギーとなって一気に噴出しようとしているとイメージしてほしい。

国の世論調査では、20代男性の47%が「将来田舎に移住したい」と考えている。また、「子育てに適している地域は田舎だと思うか」は、男女とも田舎だと思っている。特に女性は見事に全世代で田舎の方が子育てしやすいと答えている。

移住で常に話題になるのが仕事。「こんな所に仕事はない」という人がいるが、来ている人は起業や継業など、仕事を自分で作っている。また、地域に1人分の仕事はないが、0・3人分の仕事はたくさんあって、いろんな仕事を合わせて1人分以上の仕事にしようという「多業化」もある。

「仕事はない」と言わずに、どんなふうに若者が地域に定住しようとしているかを見つめ、どうすれば安定できるかを一緒に考えることがポイントになる。

◆人が人を呼び 仕事が仕事を

近年生まれた言葉で、「関係人口」(気に入った地域に関わろうとする人々)がある。推計では、関係人口は全国に点在しており、丹波篠山は全国の中でも関係人口を多く集めている地域の一つだ。

関係人口はなぜ、わざわざ地域に関わるのか。特に若者たちは地域に関わること自体に価値があると考えている。古民家改修に自費で参加して汗を流すという事態が当たり前に起きている。

私たちの研究で分かったことは、今、「地域づくり」と「田園回帰」、そして、「関係人口」が好循環しているということだ。地域づくりがきちんと行われて、まち協や集落が面白い活動をすることで、全国から関係人口が入り込んでくる。そして地域がますます面白くなり、さらに人を呼び込む。それがぐるぐる回る地域が生まれ始めている。

ただし、そういう地域があれば、そうでない地域もある。われわれは「むらむら格差」と呼んでいる。今は「まちむら格差」ではなく、集落間格差が生まれている。

今後も自然減によって人口は減っていく。その中でいかに人材を増やすのかが重要。地域づくりに取り組んでいる住民やまち協、仕事を作ろうとしている移住者、何か関われないかと考える関係人口、地域貢献を探る民間企業など、にぎやかな過疎は多様な人材が交錯する。そして、人が人を呼び、仕事が仕事を作る現象が起きる。

丹波篠山はそんな地域をすでに作り始めているので、さらに伸ばしてほしい。過疎エリアに指定されたのは、この農山村から地域を再生してほしいというメッセージでもある。

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