異色の”二刀流”男性 高校教諭×ヘヴィメタルバンド 人生の軸は「自由」

2023.03.28
地域

ファーストアルバムと、愛用するギターを手にする川上さん=兵庫県丹波篠山市郡家で

高校教諭の傍ら、ヘヴィメタルバンドのメンバーとして活動する男性がいる。兵庫県立篠山産業高校の教諭、川上誠司さん(36)=同県丹波篠山市=。自身がボーカルとギターを務め、作詞・作曲も手掛けるバンドが今月、ファーストアルバムをリリースした。ヘヴィメタルは「生き方の指針を示してくれる」という。決して型にはまることなく、“二刀流”の人生を歩む川上さんが、胸に秘める思いとは―。

ギターのmasaさん(31)との2人組「ネオバベル」を結成。ジャンルは、旋律的かつ疾走感あふれるメロディーと、高音で歌い上げる「パワーメタル」だ。

ファーストアルバム「サバイバルストラテジー」は、新曲8曲を含む全10曲を収録。タイトルは「生存戦略」を意味する。川上さんは「いろんな状況に立たされている人の苦悩や混乱を書いた。どんな状況でも頭をひねって考えれば、生き残り方はあるはず。不安を抱えている全ての人たちに届けたい」と話す。

ライブハウスで魂のこもったステージを披露する川上さん(左)(提供)

同県加古川市出身。受験勉強に励んでいた中学生の頃、ヘヴィメタルに出合った。「深夜のラジオから流れるギターとドラムの激しい音色。ボーカルは熱意を込めてシャウトし、何かを攻撃的に訴えかけてくる。『僕の探していた音楽はこれだ』と衝撃を受けた」

高校時代には、初心者5人でロックバンドを結成。地域のイベントやラジオにも出演し、話題になった。新潟県内の大学に入学後もヘヴィメタルバンドを結成。この頃から作詞、作曲も手掛けるようになった。進路の選択肢の一つだった高校教員の免許を取得。兵庫県内の工業高校に着任後もメタルコアバンド「ラストデイドリーム」を結成。関西圏を中心に活動した。

その後、音楽の方向性の違いからバンドを脱退するも、篠山産業高に赴任後の2016年には新たに「ネオバベル」を結成。コロナ禍前は大阪府内などのライブハウスのステージに月に2―4回は上がっていた。「自分の人生の軸は『自由』。やりたいことをやる。音楽が駄目と言われたら教師をやめるぐらい」と笑う。

バンド活動は学校に申請し、認められている。教員の仕事とかけ離れたように映るバンド活動だが、共通する部分があり、好影響もあるという。「曲も、ライブハウスの魅せ方も、授業の組み立てと同じで、共同作業。教科書の問題を書き写させるのではなく、学んだことはグループで話し合わせる。専門用語は比喩表現で例える。片方だけが気持ち良くなってはいけない」と説く。

同校では機械研究部の顧問を務める。「バブリーダンス」で話題を呼んだ大阪・登美丘高校ダンス部のユーチューブに「面白そう」と感じ、18年から活動内容の動画投稿を始めた。これまでに約150本を投稿。生徒自らで発信することから「面接練習がいらなくなるぐらい、人前で話すことに慣れてくる」と話す。

生徒指導部の副部長も任され、機械工学科では科長を務める。昨年は、丹波地域の理想の将来像を実現するための県の活動に参画する「たんばユースチーム」のメンバーに選ばれた。生徒からは「生徒のことを考えて行動してくれる」「周りに流されず、自分を持っている人。かっこいい」と、周囲からの人望も厚い。

川上さんは「抑圧された環境で生きている人が多い中で、仕事で成果を出しながら、自分のやりたいことを幸せそうにやり、かっこいい姿を見せることが、子どもにとって一番の学びになる」と確信している。「『周りの目は気にするな。ごちゃごちゃと御託を並べる前にまずはやれ』と、声を大にして言いたい。生徒にも『思ったことはしゃべれ』『失敗しまくれ』と伝えている。うまくいくかは分からない。けれど、やってみれば案外できる。主体的な精神さえあれば、仕事でも趣味でも何だってできる」と語る。

「そのままでは駄目だろ?」―。ライブハウスと教壇という2つのステージで、川上さんはオーディエンスに問い続ける。

アルバム(税込み3080円)はネット通販サイト「アマゾン」などで購入できる。

関連記事