ある小学校のPTA改革 加入・非加入自由、活動はできる人で 「そもそもボランティア」でも合言葉は「子どものために」

2023.05.18
地域

従来のPTA組織から改革をスタートした「PTO」の役員ら=兵庫県丹波篠山市東浜谷で

「新しい組織の名前は『PTO』です。Oには『応援団』の意味を込めました」―。兵庫県丹波篠山市立岡野小学校で開かれたPTA総会。同小・幼稚園の保護者らが今年度、役員を務めることや活動が負担になるなど、多くの保護者にとって悩みの種になっているPTAの「改革」を始めた。保護者が加入・非加入を選択できるようにし、非加入でも子どもたちに不利益はないようにしたほか、活動は参加できる人で行うなど負担を分散。改革のインパクトを伝えるため、PTAの名称も変えた。掲げる思いは、強制感や義務感をなくし、「無理なく、子どもたちのために」。果たしてその中身とは―。PTO会長に就任した上本浩之さん(44)らに改革の内容を聞いた。

◆加入・非加入 選択は自由に

PTAはそもそも任意のボランティア団体だが、多くの学校で入学と同時に半ば自動的に加入していることを疑問視。教職員にも加入・非加入を選んでもらい、退会も自由にするなど、強制感を取り払った。また、非加入世帯の子どもであっても、PTO主催の行事に参加できるようにした。

会費はこれまで年間3000円。自動的に各世帯の口座から引き落とされていたが、これまでの繰越金があったことなどから適正価格を検討し、2000円に引き下げた。

◆活動は全体に アプリも活用

役員負担についても改革を行った。従来は地区委員や学級委員になると執行部の各部に所属し、主な活動は会長ら三役と各部長、部員が行うため、「PTA活動」よりも「役員活動」に近く、何らかの委員になると「負担が発生する」と捉えられており、積極的になり手になる人が少なかった。

そこで、PTO本部は会長、副会長、会計など数人に限定し、▽広報▽地域▽安全▽事業▽6年生企画部―の各部は執行部の外に配置した。ほとんどの部員は2、3人という少なさ。その秘密はこうだ。

各部には主な活動や一年の流れを分かりやすく伝える用紙を配布し、部長はそれぞれの部で考えたアイデアを本部に伝えることが主な役割。部だけでできる範囲の事業は少人数で行い、人数が必要な際には、連絡を受けた本部が連絡用の「アプリ」を使って「ボランティア」として全会員に参加を呼びかける。結果、人数が集まれば実施し、集まらなければ割り切って実施しない。役員らは、「役員だけでやろうとするから負担が増える。あくまで活動はボランティアだと認識し直すことが大切だと思う」と話す。

全体で集まる夜間の会議などもなくした結果、「これならできる」と、以前は難航した部長選びが30分程度で終了した。

また、規約にはなかったが、「会長は6年生の保護者から」という暗黙のルールがあったものの、「一年だけでは全体の改革に取り組むのは難しい」と、4年生の保護者の上本さんが会長に立候補。6年生の保護者は新設した「6年生企画部」で、最終学年の思い出作りに励んでもらうようにした。

◆保護者目線から 子ども目線へ

活動内容については、保護者目線から子ども目線にするため、全学年にアンケートを実施し、「お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんと一緒にしたいこと」などを聞き、活動に取り入れる。コロナ禍や保護者の負担などが原因で近年は実施していない夏休み中のプールについては、児童の大半が「あった方がよい」と回答していることから、実施に向けて検討している。

リサイクル活動やバザーなどは子どもたちが楽しむ活動のための収益になることや、回収を待っている住民もいることから継続する。

◆地域に賛助会員 お互いに関心を

PTAに地域(コミュニティー)も入れた「PTCA活動」をより実のあるものにし、子どもたち、学校、保護者、地域がそれぞれに関心を持つようにしようと、保護者以外の住民や団体にも「賛助会員」(1口500円)を募る。

「子どもたちのために」を合言葉に地域との距離感を縮め、緊密に連携して一緒になって子どもたちを楽しませることで、「この学校、地域で良かった」と、地域づくりにつなげる考えという。

このほか、支出の見直しや役員負担の軽減を考え、今年度、市PTA協議会からも脱退した。

これまでにも小学校や中学校でPTA役員を務めてきた副会長の森本良太さん(43)は、「負担を減らしつつ、これまでよりも活動の幅が広がるのでは」と期待。「先生方だけでは成り立たない部分もあり、PTOでバックアップしていきたい」と話す。

◆全国では解散も 「保護者組織は必要」

近年、PTAの負担が全国的な話題となり、解散する組織も出始めた。ネットニュースのコメント欄などには、「そもそもいらない」という声もある。これらの動きについて役員らは、「PTAを全て否定しないが、強制的な風習や、働き方の変化などもあり、これまでの形が時代に合っていないと思う。ただ、なくしてしまうと、保護者同士が会う機会がなくなり、学校と家庭の距離も遠くなる。なくても困らないかもしれないけれど、社会全体のコミュニケーション能力の低下につながるので、何らかの組織は必要だと思う」とする。

上本さんは、「シンプルに『おかしいな』と感じたところを『普通』にしただけ。ただ、一人ではできないため、気心の知れた保護者に思いを伝え、仲間と共に役員に立候補した」と振り返る。

その上で、「学校は勉強する所で、何でも学校任せにするのは違う。一方で、『子どもたちのやりたいことをかなえてあげたい』『もっと学校を楽しくしたい』という思いを持った保護者がいても、言った人がやらないといけなかったり、役員全員に負担がかかったりするのも違う。もうこの辺りでやり方を変えないといけない」と言い、「まだまだ未完成な部分もあり、活動を進めながら意見を聞いて完成させていきたいが、うまくいけば、『岡野は楽しそう』と思ってもらえるはず。まず岡野が取り組み、市内の他地域にも広がっていくことで、今よりもっと活発なまちになるのでは」と前を向いている。

PTA Pは「ペアレント」(保護者)、Tは「ティーチャー」(先生)、Aは「アソシエーション」(組織)。子どもたちの成長のために保護者と学校が一緒になって活動する団体だが、近年、共働きの増加など生活スタイルの変化や、児童・生徒数の減少などで役員になることや活動に負担を感じる人も多い。

関連記事