「戻る」より「前に」 コロナ禍の地域医療支えた医師 「学んだこと覚えていて」

2023.06.04
地域

名誉院長の称号を贈られ、コロナ禍を振り返る片山さん=兵庫県丹波篠山市黒岡で

兵庫県丹波篠山市にある兵庫医科大学ささやま医療センターの前院長で、現在は岡本病院(同市東吹)の副院長を務める片山覚さん(68)。新型コロナウイルスに対して早期に医療が介入し、感染者を医療から離さない体制「丹波方式」を確立するなど、コロナ禍に対する地域医療の中核を担い、同大学から初の「名誉院長」の称号が贈られた。感染症法上の5類に移行した新型コロナ。第一線で地域を守ってきた片山さんは今、何を思うのか。話を聞いた。

 

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―コロナ禍が落ち着きを見せ始めた

最終的な統計はまだ出ていないが、兵庫県内を見ても丹波地域で亡くなった人は少ないと思う。その点で一番大きかったのは、ワクチン接種が進むまでに地域ぐるみで高齢者施設でクラスターを起こさなかったこと。感染力が強くなると丹波地域でもクラスターが起きたが、致死率や重症化率が高かった頃は起きていない。逆にその頃、クラスターが起きた地域は亡くなった人が多かった。

―どう守った

2020年に、患者が病院にかかる前に自身で病状を分析する「発熱時相談チェックシート」を丹波地域に全戸配布した。シートによって高齢者施設の利用者や勤務している人、その家族にできるだけ早めの検査を呼びかけたことで、ウイルスを施設に持ち込ませないようにした。このシートが実は「丹波方式」のスタートになっていて、すごく大きな効果があった。

―コロナ禍をどうみる

困ったことばかりが印象に残っていると思うが、「風邪症状があれば仕事を休めばいい」とか、「症状があるのに電話もかけずに病院に行ったら周りの人にうつす」とか、気をつけないといけないことを経験できた。

これまで具合が悪かったらすぐ病院に行ったらいいと思われていたかもしれない。ただ、病院で風邪をもらうという話を聞いたことがあると思うが、実際よくある。定期受診した人が、2日後に熱を出して来院することもある。コロナ禍をきっかけに、そういうことが少なくなればいい。

―まだマスクを着けるなど慎重に行動している人も多い

「マスクを着ける?」「着けない?」などと、マスコミはすぐにどちらかに決めたがるけれど、いろんな人がいることで、急激に前に戻らず、社会が破綻せずにいられる。これは良いことなんだろうなと思う。やっぱり感染症は、みんながうつさないように気をつけることが大切だ。

5類に移行したことで、「前に戻る」よりも「一歩前に進む」感じにならないといけないし、コロナ禍で学んだことは大事なこと。覚えていてほしい。

―医師としてこの感染症をどうみた

呼吸器感染症で、無症状で、人にうつって重症化して、さらに後遺障害もある。こんなやっかいな新興感染症は、もうないことを願うほど。

―どんな気づきがあった

延命治療に関し、高齢者が感染し、人工呼吸器や人工肺を付けても回復の可能性は低く、効果がないとなったときに、「高度医療までやるか、一般的な治療の範囲でやるか」という話をすごくたくさんした。必要に差し迫られてではあったが、人生最期の医療について、希望する医療を前もって話し合っておくことが大切だと改めて感じた。

また、入院すると面会できなくなるから、できるだけ自宅療養をしたいという人も増えた。やっぱり家族に会いたいから。これまでは好きな時に会いに行けたが、病院で院内感染を起こすと非常に厄介。今後もある程度、面会はコントロールしないといけないと感じているため、自宅療養を希望する人は増えると思う。

―このような感染症は今後もあると思うか

コロナほど厄介かは別にして、21世紀は10年に1つくらい、人類が感染したことがない感染症が出ると思う。深海やアマゾンの奥地などには出合ったことのないウイルスがいて、人類が進歩すればするほど社会に入ってくる。

一方で、世界の医学者たちも新しい方法やワクチンを開発するなどして、医学も進歩していくことになる。

―名誉院長の称号を贈られた。功績では、若い学生への臨床教育も評価された

初めての称号とのことで、うれしい。

学生には西宮の本院では勉強できないことを学んでもらった。それは、「よくある病気」「よくある症状」「よくある健康問題」だ。

専門的で特殊な症例ばかりが集まる大学病院では、よくある病気は診ることが少ない。学生たちにはよくある病気が多い地域の病院で、スタッフと同様に働いてもらう参加型臨床実習に取り組んでもらい、多様性への対応力を学んでもらった。

―伝えたかったことは

若い学生は高度医療をやりたいと言うが、いずれは町医者をしている人も多いので、「はやる町医者になれ」と言ってきた。それは「何でも話を聞いてあげられる医者」だ。「この病気はうちじゃない」とか言わずに、じっくりと患者さんの話を聞く。名探偵も名刑事もたくさん話を聞いて真相に迫る。

最初に患者に会う地域の医者に必要なのは、何の病気かという「見立て」。多様な健康問題の〝謎解き〟と言ってもいい。医者として、それは楽しいことでもある。それらを学ぶ場として、ささやま医療センターはとても良い場所だ。

―兵庫医大を退職後も丹波篠山に残った

コロナ禍の時、市などに「地域でのチーム医療が大事だ」と盛んに言い続け、一緒にやってきた。もうちょっとチーム医療を進めていけたらと思っている。

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