パワハラ疑惑などを内部告発された問題を巡り、兵庫県議会から不信任決議を受けた斎藤元彦前知事が30日、自動失職した。斎藤氏は失職前の26日に県庁で会見し、出直し知事選に立候補する考えを表明。「県政改革をさらに進めたい思いがある。県民に信を問いたい」と述べた。いわゆる文書問題は「県民に改めておわび申し上げたい。私も至らないところがいろいろあったと思う。県政混乱は認めざるを得ない」と陳謝した一方で、一連の県の対応は「適切だった」との認識を示していた。
会見で斎藤氏は、県議会の解散は「私の中では最初から(選択肢に)なかった」とし、解散しない理由を「私のこれまでの対応が問題で、自ら信を問うことが大事」とし、阪神淡路大震災で時期がずれていた県議選を4月の統一地方選に合わせていることに触れ、「今回の件でずらすのは議員の努力を無駄にするので選択肢になかった」と述べた。
失職し、出直し選挙に出馬する決断をしたのは、「25日の朝」とし、高校生から「負けないで屈しないで未来のために頑張ってほしい」という趣旨の手紙を受け取り「選挙は大変だと思うが、頑張ってみようと覚悟ができた」と語った。
また、記者から道義的責任を認めないのかと問われ、「大きな責任は感じる」と述べた一方で、辞職でなく失職を選んだ理由を「自ら職を辞す辞職は選択肢になかった。辞職は道義的責任を認めることにつながる」と述べた。「辞めるより、続けて仕事をしていくことも責任の果たし方。不信任決議が出たので辞職ではなく失職」と、続けたい自身の意に反し、職にとどまれないために失職という形を取るとの思いを語った。
また、不信任決議により失職することになったことに関し「文書問題についても調査して事実を解明していくのはすごく大事だが、果たしてそれが、知事が職を辞すべきほどのことなのかというのがやっぱり根底にある。机をたたいたり、ペンを投げたりはやっては駄目だし、そこは反省しないといけないが、3年前に大きな負託を受けて知事にならせてもらった。職を辞すのはかなり重大なこと。議会の判断だが、そこは、本当にそこまでいかなくてはいけなかったのかという思いはある」と本音をのぞかせた。
選挙には、無所属で出馬するとした。「おそらくどの政党の力も借りるのは難しい。1人でやっていくことになる。できるのか、との指摘もあるかもしれないが、やりたい」と述べ、「斎藤に欠点や間違ったこともあったと思う。それでも県政を改革し、新しい兵庫県をつくりたい。その歩みを続けるのか、昔のような県政、箱物だとかいろんなしがらみの中で事業をやっていくのか、そういうものに戻っていくのか」と、県政改革の継続か否かを争点に信を問う考えを示した。
冒頭、自身の3年間の実績を述べた。県庁舎の再整備の見直し、県職員の65歳以上の天下りの廃止、海外事務所の削減、大型アリーナや芸術家とタイアップした箱物のストップ、自身の給与や退職金のカット、公用車のリースへの変更などを挙げた。
行財政改革と税収の伸びで30年ぶりに県の財政調整基金が100億円を超え130億円になったことを「大きな成果。急を要すときにいろんな事業、財政出動ができる体制ができた」と強調。県立大無償化、不妊治療への助成、1人当たりで全国46位だった県立高校への予算を増額し、クーラーの設置や部活動の応援に6年間で300億円の予算を付けたとし、今後も「Z世代の支援をしたい」と重ねて強調した。
斎藤氏は、神戸市出身の46歳。元総務官僚。大阪府財政課長などを経て3年前の知事選に無所属で初出馬、初当選。日本維新の会、自民党から推薦を受けた。
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斎藤氏の失職を受け、兵庫・丹波地域の関係者に話を聞いた。
丹波市選出・石川憲幸県議の話 告発文書の調査結果が出ていない中で、「辞職」は自身の非を認める意味合いがあると解釈すれば、「失職」はある程度理解できる。ただ不信任案に賛成した以上、次の選挙は前回のようには斎藤氏を応援しにくい立場でもある。候補者擁立に向け自民党県議団の一人として動くが、過程では難しい判断も出てくるだろう。
丹波篠山市選出・大上和則県議の話 会見を聞いたが、これまで通りという印象。政策能力よりも人としての経験値が足りなかったのではないか。次の選挙で同じ過ちをしないために県議団の意思統一は必要かと思うが、さまざまな意見があり、まとまらない可能性もある。仮に斎藤氏が再選し、告発文書の調査が進めば、再び混乱するのは目に見えている。
県市長会・酒井隆明会長(丹波篠山市)の話 県政の混乱、停滞の責任は斎藤知事にあり、速やかな辞職が筋道だった。会見で改革をアピールされていたが、少子高齢化・人口減少や地域医療の格差是正、農業や農村の振興など、肝心なことは何一つ前に進んでいない。新知事は県民と心やすくしていただき、立場の弱い人や地域に目を向ける人に務めてほしい。