96年たった今もそこに 希少つる植物「ホウライカズラ」 自然愛好グループが再確認

2024.12.18
丹波篠山市地域注目自然

佐々婆神社の森で96年ぶりに確認されたホウライカズラ=兵庫県丹波篠山市で

96年前に兵庫県丹波篠山市の佐々婆神社の森で著名な植物学者によって記録された希少植物「ホウライカズラ」を、自然愛好グループ「篠山自然の会」の有志メンバーがこのほど、同じエリアで再確認した。同会顧問の樋口清一さん(88)は、長い年月を経て、今なおここで息づく希少種を手に、「この1世紀近くの間、大きな戦争があったり、時代が激しく変化したりしたのに、この小さな植物は当時と同じ場所で、脈々と世代をつないできたかと思うと実に感慨深い」と話している。

同県立人と自然の博物館(三田市)の主任研究員で、希少植物の保全・研究をしている藤井俊夫さん(60)が、丹波篠山市教育委員会が編集を進めている「丹波篠山市史」自然環境編の協力員として同市内の希少植物を調べる中で、著名な植物学者、田代善太郎氏(1872―1947年)が1928年に佐々婆神社で採集したホウライカズラの標本が、京都大学に保管してあることを知った。

藤井さんは、親交のある樋口さんに、今なおその場所に生育しているか調査を依頼。樋口さんは同会員に呼びかけ、集まった5人で先月14日に調査を実施した。インターネットなどから印刷した写真を手がかりに探すこと約1時間。「うわぁ、あったぞ」と歓声が上がった。この周囲に複数株を確認したという。

丹波市では1968年1月、氷上町の弘浪山で、植物研究家の細見末雄さん(1908―98年)が郡内初の記録を残しており、その標本ラベルには「西丹波では極稀」と記されている。

丹波地域のほか、県内では神戸市、姫路市、洲本市、南あわじ市で記録がある。県レッドデータブックでCランクに指定されている。

藤井さんによると、ホウライカズラは鎮守の森など自然度の高い照葉樹林に生育し、千葉県房総半島から以西で点々と分布が見られるという。それらの府県の半数で絶滅危惧種に指定されている。藤井さんは、「長年にわたり、その当時の生育環境が変わらず維持され続けてきたことに驚いている」と話している。

田代氏は福島県出身。東京高等師範学校で、「日本の植物学の父」と呼ばれる牧野富太郎氏に師事。教師となり、仕事の傍ら日本各地で植物標本を集め、植物分類学、植物地理学の発展に寄与した。丹波篠山市市野々で見つかったタシロラン(ラン科)の和名は田代氏が発見したことにちなむ。

◆ホウライカズラ◆ マチン科。千葉県以西、四国、九州、沖縄県北部、台湾に分布する、常緑つる性の木本。葉は卵状楕円形で先は鋭くとがり、長さ6―11㌢、幅2―5㌢、両面とも無毛で、対生。6―7月にかけて、葉腋に淡黄白色の花を下向きに垂れるように咲かせる。花冠は基部近くまで5つに裂け、反りかえる。果実は直径約1㌢で、晩秋に橙―赤色に熟す。和名のホウライ(蓬萊)の由来は、古代中国において仙人が住むといわれていた場所にちなみ、普通には見られない珍しい植物として、この名が付いたとされる。

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