ツバメとの交流を絵本に 亡妻つづった絵と文で 節目に製作「供養に」

2025.02.05
丹波篠山市地域

亡き妻、文子さんが手がけた素材をもとに製作した絵本を手にする安井市郎さん=兵庫県丹波篠山市内で

兵庫県丹波篠山市の安井市郎さん(89)は、亡き妻・文子さんがツバメとの心温まる出来事を絵と文で記録していた素材で絵本を自費出版した。安井家には毎年、ツバメが軒下に巣をかけ繁殖している。2004年の夏、巣から落ちて命が危ぶまれたひなを助けた文子さんは、無事、巣立たせるまで懸命に世話をした11日間の日々を絵に描き残し、命の大切さや親の愛情の深さが感じられる文章を書き、市郎さんも手伝って絵本を手作りしていた。あれから20年の歳月が流れ、「多くの人に読んでもらいたい」と、業者に発注して印刷製本した。「妻が楽しそうに一生懸命に描いていたのを知っているので、きっと、立派な絵本になったことを天国で喜んでくれているのとちゃうかな」とほほ笑んでいる。

絵本のタイトルは「がんばろうね ピーコ」。縦、横共に約19センチ、フルカラーの37ページ建て。

04年7月、目が開いていない1羽のひなが巣の下に落ちていた。ツバメの生態の知識も飼育のノウハウも皆無だったが、助けてやりたい一心で世話をすることに。相談した獣医師からは「野鳥は難しい。生きて2、3日」と宣告されたが、缶詰のコオロギを食べさせるなどして懸命に世話をした。そのかいあって「ピーコ」と名付けたひなは無事に成長し、11日後、親鳥ときょうだいのもとへ元気よく飛び立った。9月、畑で農作業をしていると、大きな声で鳴きながら頭上を何度も旋回するツバメの姿があった。「あっ、ピーコ」。南へ渡る前にあいさつに来てくれたのだ。「来年また、帰って来るんだよ」と見送った―というあらすじ。

文子さんはあとがきに、「胸が熱く高まり、うれしくて爽やかな一瞬を永く留めておきたい思いで絵本にした」「私の心に大きな財産を残してくれた」とつづっている。

「この出来事には後日談がある」と話す市郎さん。この翌年(05年)の春、ピーコが舞い戻って来たという。物干し竿にとまり、文子さんが近づいても逃げるそぶりを見せず、甘えるように、会話を交わしているかのように「グチャグチャ、ピー」としばらく鳴いていたという。

文子さんはツバメとの出来事を絵本にしようと、丹波新聞社カルチャーセンターで当時開設していた絵本作り教室に通った。市郎さんも文子さんの頑張りをサポート。絵をカラーコピーしたり、文章をパソコンで打ち直したりしてページ作りを手伝った。それらを貼り合わせ、金色のペンでタイトルやイラストを描いた赤色のハードカバーでとじた絵本が05年3月に完成した。

「子どもたちに読んでほしい」との思いを強く持ち、小学校で英語の授業があることも知り、「授業の一助になれば」と英文を添えたバージョンも含め、計25冊を手作りし、市立図書館などに寄贈した。これらの取り組みをNHKが取材。放映されると反響を呼び、「市民の皆さんには、図書館でずいぶんと借りていただけたようで、作ったかいがあった」と当時を振り返る。

ツバメと交流した出来事から20年の節目となり、11年12月に74歳で他界した文子さんの供養になれば、と今回、本格的に印刷製本することにし、250冊を作製した。また昨今、「闇バイト」のワードが世間を騒がせ、強盗や殺人といった若者による凶悪事件が目立ちはじめた国内の状況を憂い、「命の尊さを幼い頃から知ってもらえたら」との思いも動機となった。

中央図書館(西吹)などで借りることができる。

絵本は、昨年のクリスマスの頃、市内の小児科医院に通院してきた親子らにプレゼントした。

関連記事