兵庫県丹波篠山市宇土の熊野神社で、古い建物の屋根に見られる檜皮葺(ひわだぶき)の材料となるヒノキの樹皮を採集する作業が、同県丹波市山南町の原皮師(もとかわし)たちによって行われている。ヘラを使って樹皮を剥いだり、「振り縄」を幹に巻き付け、スルスルと木に登るなどして、手際よく檜皮を採集。薄暗く静まり返った社寺林に職人たちが樹皮を剥ぐ「ザクッ」「バリッバリッ」といった小気味の良い音が響いている。
作業を行っているのは同町阿草の「矢野桧皮屋」(矢野政章代表)の3人。「カナメ」と呼ぶ堅い木で自作した直径約1・5センチ、長さ40―60センチのヘラを樹皮のすき間に差し込んで、職人技で鮮やかに檜皮を剥ぎ取りながら、振り縄を使ってずんずんと樹上へ登り、3メートルごとに鉈でカットして集めていた。
矢野代表(56)によると、樹齢80年ぐらいのヒノキが檜皮を取るのに適しているのだという。外皮(黒皮)だけを剥ぎ取り、その下にある内皮(甘皮)は傷つけないようにして残す。そうすることで再び外皮が形成され、8―10年周期で檜皮が採取できるのだという。
檜皮の採取の適期は、8月―4月中旬。これ以外の時期だと、ヒノキが水を吸い上げているので、樹皮がずるりと大きく深く剥けてしまい、木を傷めてしまうのだという。
今年度、矢野代表らは、丹波篠山市内のほか、同県佐用町や京都・亀岡市、大阪・能勢町、遠くは岡山県で檜皮の採集を行ってきた。
同神社では代々、檜皮が採集されており、1995年、2013年にも行われている。
作業を見学していた宮総代(氏子36戸)の小前扶元さん(75)は、「原皮師の仕事を初めて間近で見た。高所作業なので危険で厳しい仕事だ」といい、「我々の村の木が、どこかの神社のお役に立っていると思うと、うれしくなる」と笑顔を見せていた。