当たり前にありすぎるけれど、住民が大切にしていきたいもの「世間遺産」―。丹波新聞では、兵庫県丹波地域の人や物、景色など、住民が思う”まちの世間遺産”を連載で紹介していきます。今回は、兵庫県丹波市青垣町栗住野の蘆井神社の十二支彫り物です。
鎮守の森にひっそりと鎮座する蘆井神社は、本殿の見事な彫刻で知られている。麒麟、唐獅子、獏、象、竜などが彫られている。同神社など40社の神職を兼務する梅只敏幸宮司は「彫り物の見事さは、お預かりしている神社の中でピカイチ」と話す。
中でもユニークなのが、柱の外側に突き出るように頭部が彫られた十二支。北面に「子」「丑」「寅」、正面は鈴があるからか、「兎」「辰」の2つ。南面に「巳」「午」「未」、正面が少ない分、背面に「申」「酉」「戌」「亥」の4つが彫られている。
今年の干支「巳」だけはとぐろを巻く全身が彫られている。鱗の1枚1枚まで精緻だ。「子」は大きく目を見開き、どこからでも目と目が合うよう。「酉」はけたたましく鳴いているところ、「申」は大きく口を開け今にもかみつかんばかりの躍動感にあふれている。彩色を施した痕跡があり、当初はより装飾的だったとみられる。
同神社は延喜式内社。創立年は不詳。天正年間(1573―91年)に芦田吉正が社殿を再建、何度か改修、改築がされ、現在の建物は18世紀後半と推定される。大学の研究者が神社の建物を調べたが、彫り物師の銘はなく、誰が彫ったのか判然としない。丹波地域の神社仏閣に多くの装飾彫刻を残した中井権次一統の作という説がある一方、十二支を頭部だけで表現する技法は中井一統より時代が古いという説もある。1740年前後に活躍した浪花彫物師、草花平四郎の作という説もある。
本殿は覆い屋がかぶっており、日が差さない背面の彫り物は暗く見えづらい。参拝は懐中電灯持参で。見上げる高い位置にある。双眼鏡を使えば間近に観賞できる。