高校教諭として英語を教え、教頭を最後に定年退職した兵庫県丹波篠山市の谷口芳正さん(64)は、退職後、専門学校で3年間学び、鍼灸マッサージ師の国家資格を取得し第二の人生を歩んでいる。退職が近づいた頃、三田市の上野ケ原特別支援学校で勤務したのが転機になった。大阪市にある専門学校に電車通学し、解剖学や生理学、東洋医学などまったく未知の分野を勉強。昨年春に卒業し、現在は伊丹市にある訪問マッサージの施術所で働いている。今年夏ごろ、自宅で開業する予定。
谷口さんは篠山産業高校丹南校で4年、氷上高校で8年、柏原高校で3年、英語教諭として教壇に立った。
柏原高に続いて同支援学校で教頭になり、「さくら訪問学級」を担当した。医療施設に入所している重度重複障がいの子どもたちに教育をする日々のなか、笑顔で一生懸命に学ぶ姿に感動。「退職後は、障がいのある人や高齢者の役に立つ仕事をしたい」と思うようになったという。
最後の勤務になった三田西陵高校教頭の時にインターネットで訪問鍼灸マッサージ師という仕事を知った。家を訪ねて施術をし、医師の同意があれば医療保険も使える。話し相手にもなる。「自分が将来受けたいサービスであり、人に提供したい仕事だ」と思い、専門学校に入った。
クラスは27人で、30、40歳代が中心。高校を卒業したばかりの生徒もおり、谷口さんが最年長だった。先生もほとんどが年下。「年下の先生に進路指導を受け、模擬試験の成績がかんばしくないときはハッパをかけられました」と苦笑い。もぐさを米粒半分ほどの大きさに三角の形にひねるのも苦労したという。クラスには柔道整復師の資格を持つ生徒がおり、教えてもらった。「でも、みんな、ため口を使わず敬語で話してくれました」。大学受験以来という猛勉強の末、昨年春、鍼師、灸師、あん摩マッサージ指圧師の3つの国家資格を取得した。
現在勤務している施術所で利用者に喜ばれると、やりがいを感じるという。「高校の勤務時代と変わらず先生と呼ばれますが、出会う人はまったく違う。定年後、新しい世界が開けました」と話している。