レザークラフト作家 西川満里子さん(52)=丹波篠山市今田町釜屋=
犬、猫、鳥―。自宅前にこしらえた手作りの「ショールーム」には、にょーんと胴長の愛らしい動物たちの人形が並ぶ。その素材は、シカの皮。農作物への有害鳥獣として駆除されたシカで、人形に生まれ変わり、これまでにない命の循環が起きている。
長野県出身で、結婚後、田舎で暮らそうと丹波篠山へ移り住んだ。12年前のことで、この時点ではまだ作家ではなかった。ある日、夫が丹波篠山で知り合った猟師からシカの皮に使い道がないことを聞き、「何かできない?」と尋ねてきた。
「妹が革細工をしているけれど、私はやったことがないし、今から習って財布やかばんを作ろうとは全く思わなくて。寝かせていました」。そして、時が動き出したのがコロナ禍。「時間ができた時、ふとシカ革の人形いいなって。独学で作って家族にプレゼントしたら、『かわいい』って好評で。それで、『売れるかも』と」
以前からクラフト作品を見たり、買ったりすることは好きだった。そして、何か一つのことを突き詰めることへの憧れもあった。そんな思いも秘めながら制作を始めた。「作家」が誕生した瞬間だった。
屋号は「anto leather(アントレザー)」。「あんと」は、郷里の方言で「ありがとう」という意味。「本当にシカは増え過ぎていて被害がある。でも、それも人間の都合。そんな複雑な気持ちを抱きながらの創作なので、シカに対して『ありがとうと少しの罪悪感』をコンセプトにすることにしました。一番良いのは、山と人里のバランスが取れて、駆除されるシカがなくなることじゃないかなと思います」とほほ笑む。
目標は駆除されるシカの皮がなくなるまで取り組むこと。「偶然だけれど、そんなことを思えて、作家になれたのはここに移り住んだからだと思います」―。この地だからこその現状が移住者の心に届き、作家を生み出すこともある。