兵庫県丹波篠山市や同市内の有機農業に取り組む農家、JAなどでつくる「丹波篠山ワクワク農都づくり協議会」は、水稲や黒大豆、黒枝豆の「有機栽培実証・栽培事例集」を作成した。化学合成肥料や農薬、遺伝子組み換え技術を使用せず、環境への負荷をできるだけ減らした有機農業の裾野を広げるため、長年にわたって試行錯誤を繰り返してきた農家が〝企業秘密〟の情報を惜しげもなく提供した一冊。関係者は、「有機は同じ地域で実践している事例が一番参考になるため、丹波篠山でしかできない事例集。有機をしたい人が増えるきっかけになれば」と期待している。
同市は2023年、有機農業を地域ぐるみで推進する「オーガニックビレッジ宣言」を行った。これを受け、協議会は2年かけて栽培実証を行ったり、栽培事例を取りまとめたりしてきた。
水稲編では経営規模が異なる3者が、さまざまな除草機械を用いてその効果を実証しようと、▽田植え機でけん引して雑草を撹拌する「あめんぼ号」▽水を濁らせて雑草の発生を抑える「アイガモロボ」▽乗用型で株間・条間をくまなく除草する「WEEDMAN」―を使用し、残草量や収量を分析。その結果、収量は「慣行栽培と同等かやや劣る」ことを実証した。
害虫の被害を受けやすく、有機農業では取り組みにくいとされる黒大豆・黒枝豆編では、5者の栽培事例や慣行栽培から有機栽培への転換実証の事例を紹介。有機栽培の黒大豆は消費者のニーズがある一方で、実証の結果は、さや数、さや重ともに慣行栽培の半分程度となったことをまとめた。
市農都政策課は、「有機の黒大豆の実情は個々の農家にとどまっており、今回、難しさも含めていろいろなことが改めて明らかになった」とし、「次のレベルとして安定した栽培技術が分かれば共有していきたい」とする。
いずれの事例集も土づくりや使用している堆肥、収量などを掲載。各農業者が自身の栽培技術のほか、有機農業を始めた経緯やこだわり、「有機農業を通じて、人や地域のつながりを広げていきたい」といった今後の思いも伝えている。
水稲であめんぼ号を使って除草を行った土谷学さん(50)は、「味の良いコメを作り、生き物を大切にしたい」という思いで19年から有機農業を実践。「食べることが好きで、おいしいものを追及したら有機にたどり着いた。慣行栽培では考えなかったようなことを考えるなど、有機は楽しい。今も日々勉強中」と笑顔で話す。
黒枝豆栽培で協力し、心と体に良い作物を作りたいと02年から有機農業に取り組んでいる中末智己さん(54)は、「有機は難しいと言われがちだが、同じ市内で実践している人の取り組みが一番参考になるし、尋ねてもらえればアドバイスもできる。事例集がそんな動きのきっかけになって、有機農家がもっともっと増えてくれたら」と期待している。
事例集は市農都政策課やJA丹波ささやま営農指導課などで配布。データで受け取ることもできる。
また、市は今年度、あめんぼ号とアイガモロボの導入に補助制度を創設している。