田んぼに幽玄世界 あぜで「能」上演 豊穣の秋願って

2025.05.26
丹波篠山市地域

田んぼのあぜを舞台に上演された能=兵庫県丹波篠山市不来坂で

一般社団法人・AZEが兵庫県丹波篠山市古市地区で年間を通じて展開している、酒米栽培から酒造りまでを体験する「100人ではぐくむ名前はまだ無い日本酒」プロジェクトの特別企画としてこのほど、同市の不来坂公民館前の水田で、「農村×能村」を初めて開いた。3人の能楽師が、田植えを待つ水が張られた田んぼのあぜを舞台に上演。同プロジェクトに参加している京阪神の参加者64人と大学生ボランティアを含む関係者計約100人が、新緑が鮮やかな里山で繰り広げられる幽玄世界を堪能した。

同プロジェクトは4年目で、今年は「丹波篠山国際博」が開かれているため、参加者に特別な思い出を提供しようと計画。能楽は平安時代中期に成立した田楽を一源流とする伝統芸能で、田楽は田植えの前に豊作を祈る田遊びから発展したという説があることから、同法人理事の吉良佳晃さん(40)が、「丹波篠山は古くから能楽が根付いている土地。田植え前の水田の邪気払いにもなるのでは」と企画した。

観世流シテ方の上田宜照さん(36)=同県西宮市=と上田嶺貴さん(25)=大阪府豊中市=、大倉流小鼓方で高校1年生の上田航平さん(15)=同県丹波市=が出演。「高砂や この浦舟に帆をあげて―」の一節で知られる謡曲「高砂」を、赤い毛せんが敷かれたあぜの上で上演した。抑揚のある独特な歌唱「謡(うたい)」と、「ヨォオッ」のかけ声や鼓の軽やかな音色を水田に響かせた。また、シテ方の舞う姿と周囲の景色が、静かにたたずむ田んぼの水面に映り、参加者たちは水鏡の情景にもうっとりとした。

能楽を鑑賞した後、その余韻を味わいながら田植えを開始。豊穣の秋となることを願い、苗を一株一株、丁寧に手で植えた。3反の田んぼで酒米・五百万石を減農薬、有機肥料で栽培する。

吉良さんは、「稲作と伝統芸能が響き合い、参加者皆さんの酒米づくりへの気持ちも高まったのでは」とほほ笑み、「高齢化、担い手不足が深刻な農村。地域の大切な農業を次世代につないでいくためにも、新しい関わりをつくり、楽しみながら取り組んでいけたら」と話している。

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