兵庫県丹波篠山市の酒井直隆さん・恵さん夫婦と親交のあるアメリカ人、ミッチェル・ホフマンさん(28)は、丹波篠山の鎮守の森の風景に心を奪われ、右腕に、鳥居や祠、苔むした参道などをモチーフにした入れ墨を彫っている。5月14日に来日し、同月19―29日、酒井家に3度目の滞在。そこで入れ墨を披露し、酒井夫婦を驚かせた。
手首から上腕にかけて、朱色の鳥居、鈴緒がぶら下がったひなびた祠、竹林の中を苔むした石段が続く参道、稲荷神社の狛狐などが緻密に色鮮やかに彫られている。
鳥居は、同市黒岡の春日神社をイメージ。参道の景色や祠、狛狐は、酒井夫婦でさえ訪れたことがなかったという見内の森の中に祭られている石橋稲荷神社がモチーフという。
スタジオジブリのアニメのファンというミッチェルさんは、薄暗くて静かな鎮守の森の雰囲気が「もののけ姫」の世界のようだとして、ヒロインのサンや木の精霊コダマ、シシ神といったキャラクターも小さく彫り込んだ。それぞれ現場で撮影した写真をもとに昨年、母国で2日間かけて彫ったという。
ミッチェルさんはアイダホ州の州都ボイシの市役所職員。14歳の時、丹波篠山市の姉妹都市、米・ワラワラ市の交換留学生として初来篠した。そこでホームステイ先となったのが酒井さん宅。さまざまな日本文化を体験しながら、酒井さんの家族と交流した。
2023年秋、26歳となったミッチェルさんは、交換留学生の引率者として2度目の来篠。再び酒井さん宅を滞在先として親交を深めた。滞在中、黒岡の春日神社の秋祭りを見物したことや、日課の朝のジョギングで偶然出くわした石橋稲荷の風景が強く印象に残り、白髪岳から望んだご来光にも感動を覚えた。もともと自然に関心があることも手伝い、「日本人は自然とうまく共存しながら、文化や伝統を紡いでいるところが素晴らしい」と強い感銘を受けた。
「神社で祈っていると、平和な気持ちになれる」とミッチェルさん。「祈ったおかげかどうかは分からないが、本当に素敵な篠山の人たちに出会え、最高の思い出をプレゼントしてもらった」と振り返る。
3度目の今回の来篠は、「特別な日本の日常を彼女に見せたい」と、恋人のハイリーさんを連れて来日した。ミッチェルさんは、「右腕の入れ墨によって、あの日のように、いつでもどこでも日本の神様に祈ることができるようになった。大好きな丹波篠山を身近に感じることもできる」と笑い、「酒井さん家族は私の第二の家族。今度はもっと多くの日本人とコミュニケーションが図れるように日本語を上手になって、また酒井家に帰って来たい」と話す。
酒井夫婦は、「ミッチェルが私たちの何げない日常の暮らしの中から、日本や丹波篠山の魅力を再発見させてくれている」とほほ笑んでいる。