彫金師 和田佳樹さん(38)=兵庫県丹波篠山市初田=
ナットをつなぎ合わせた指輪に、「ガッチャンッ」と音を立てて動きだしそうな機械に似た置物、何かの力が込められていそうな鉱物をあしらったネックレス―。
古民家の中は鉱山都市「GEAD(ギアッド)」。このまちで暮らすメカニックが仕事の合間に作った装飾品などを売るお店。きょうもさまざまなアイテムを求める人々がやって来る―というコンセプトのギャラリー&カフェだ。
この世界を作り出しているのは、彫金師の和田佳樹さん(38)。併設のカフェ「CAST」は妻の佳子さん(37)が切り盛り。息子の桐斉(とうせい)さん(6)が描いたイラストを使った缶バッジもあり、一家でこの“都市”の一員だ。
兵庫県西宮市出身の和田さんは、専門学校で金属工芸を学び、名古屋のブライダルジュエリー制作会社の工房に勤務。技術を習得し、宝塚市で独立した。
独立後は、「もともとアニメやゲームが好きなオタクだった」という自身の世界観を詰め込んだファッションジュエリーをメインに。未来都市の世界観を描くSFジャンル「スチームパンク」がブームになる中、知られた存在になっていった。
「田舎の古民家の中でGEADの世界を作りたい」と思っていた和田さん。丹波篠山は結婚前に佳子さんが勤務した土地で、田舎らしい風景が残っているのに都市部から近いことなどにほれ込み、桐斉さんが誕生したタイミングで移住した。
今では人の温かさも実感。「道ですれ違う子どもたちがあいさつをしてくれるんですよ。都会ではありえません」と感動する。もちろん田舎ならではの草刈り作業などはあるが、苦にならない。
今後はさらに世界観を表現していく。「わざわざ丹波篠山に来てもらえる環境をつくって、外の人を呼び込めるようにしたいですね」。異世界の住民から、丹波篠山人の顔になってほほ笑んだ。
【この連載では、兵庫県丹波篠山市で暮らす工芸作家を紹介しています】