当たり前にありすぎるけれど、住民が大切にしていきたいもの「世間遺産」―。丹波新聞では、兵庫県丹波地域の人や物、景色など、住民が思う”まちの世間遺産”を連載で紹介していきます。今回は、兵庫県丹波市山南町谷川の「首切地蔵尊」のそばで、同地蔵尊保存会が管理している地下水「地蔵命水」です。
2カ所に計3つの蛇口がある。「新たな名物をつくろう」と、2006年3月に同保存会がボーリング工事を行い、良質な水脈を掘り当てた。同保存会の藤原貞夫さん(81)は、「30メートルを掘る計画だったが、岩盤をくり抜いて約20メートルで水が出た」と当時を振り返る。毎年、丹波健康福祉事務所で水質検査を受けており、飲料水としてのお墨付きも得ている。
首切地蔵尊にまつわるいわれは、約840年前の源平合戦にさかのぼる。敗れた平家一門が、逃げ延びた先の山南町谷川の首切沢で処刑され、悲運の最期を遂げたと伝わっており、里人たちが石碑を建てて弔ったのが始まりだという。首から上の願い事に御利益があるとされ、正月三が日には受験生やその家族らのお参りでにぎわう。
地蔵命水は、一日10人前後の客があるといい、定期的に水をくみに来ているという男性は「まろやかな感じでおいしい」と話していた。
同地蔵の御利益かは定かではないが、地蔵命水は「二日酔いに効く」という声もあるとか。同保存会の藤原さんは「この水を飲んでいるおかげで、80歳を超えてもしゃんとしています」と笑顔だった。
水は無料で提供しているが、ポンプの管理や水質検査などに費用がかかっているため、「お供え箱」への浄財協力を呼びかけている。