追悼公演へ心ひとつに 市民劇団「劇研・椎の実」 荻野主宰の最後の脚本「演じ切りたい」

2025.10.21
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来場を呼びかける「劇研・椎の実」の団員ら=兵庫県丹波市柏原町柏原で

兵庫県丹波市で活動する市民劇団「劇研・椎の実」が、11月9日午後2時から丹波の森公苑ホール(同市柏原町柏原)で、オリジナルコメディー「三婆(さんばば)がサンバ」を上演する。8月に亡くなった主宰の荻野祐一さんによる最後の脚本で、団員らは追悼公演を例年以上に良いものにしようと、練習に熱が入っている。8日午後7時から同会場で公開リハーサル。いずれも入場無料。

練習に熱が入る出演者ら

還暦に近い年齢の女性3人を主人公にしたコメディー。コウノトリの化身であるおばあちゃんの跡を継ぐ孫たちが、呪文でカップル3組を誕生させるが、男たちがぼんくらで…というストーリー。生前、荻野さんが「昨年の公演は分かりづらかったと言われたので、今年は楽しい話にしようと決めていた」と語っていた通り、椎の実らしい人情味がありつつ、笑いに力点を置いている。

椎の実は戦後間もない1948年に設立。荻野さんは23歳で同劇団に入団し、66歳で亡くなるまでに約30作品の脚本を手がけた。役者、演出も担い、2009年からは2代目主宰として劇団を引っ張った。

今年も原稿を書き上げ、練習にかかろうとしていたところ、胃がんが発覚した。4月当初は練習に参加できていたが、病の進行で難しくなり、動画を送ってもらい、病床から電話をかけたり、メールを送ったりしてアドバイスを続けたという。

荻野さんと同級生で、劇団でもほぼ“同期”として活動を共にしてきた平田恭輔さん(66)に今公演のバトンを預け、帰らぬ人に。平田さんは「団員みんなの心に大きな穴が開いた」と肩を落とす。しかし、苦境に「自分たちでやらなければ」という意識が高まり、共に成長できている面もあるという。

小学生3年生以上の16人が出演する。〝三婆〟の一人を演じる中森加代子さん(70)は、「最後に聞いた言葉が『頑張れ』だった。今も後押しをしてもらっているよう」と言い、「祐一さんだったらこう言うだろうな、と考えながら演技している。一生懸命演じることで、お客さんに『良かった』と思ってもらえる舞台にしたい」と話す。

また、キーパーソンの金貸し業の女を演じる山中美香さん(42)は「荻野さんが残してくれた最後の脚本。私たちなりにやり切りたい。女たちがコロッと変わる面白さを見せたい」と意気込む。

友情出演で初参加する、同県丹波篠山市の演劇サークル「花いちもんめ」の棚橋直人さん(54)は、「生前、舞台をご一緒することはかなわなかったが、今回、参加させていただけて光栄。お世話になってばかりだったので、少しでも恩返しできれば」と言う。「花いちもんめはコロナ以降活動ができていないが、再開したい思いがめらめらと燃えてきた」と刺激になっている様子だ。

演出を担当する吉竹仁人さん(42)は「表現の仕方を言葉で伝えるのは難しく、祐一さんの存在の大きさを感じている」としつつ、「“当て書き”で、その人に合ったキャラクターがしっかり描かれているので、演者さん自身の良さを出せるよう練習している。意見交換しながらみんなで舞台を作り上げたい」と力強く前を向いている。

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