野鳥の楽園「水鳥の里」 児童の通学安全で誕生 連載”まちの世間遺産”

2025.10.27
丹波市地域地域自然

「銃猟禁止」の看板がある「水鳥の里」。川で数十羽のヒヨリガモが浮かんでいる=兵庫県丹波市氷上町稲畑で

当たり前にありすぎるけれど、住民が大切にしていきたいもの「世間遺産」―。丹波新聞では、兵庫県丹波地域の人や物、景色など、住民が思う”まちの世間遺産”を連載で紹介していきます。今回は、兵庫県丹波市氷上町沼貫(ぬぬぎ)地区の「水鳥の里」です。

同地区を南北に流れる加古川の錦橋(同町稲畑)―佐野橋(同町佐野)間の1キロ弱は、野鳥の楽園。カモ、サギの仲間が多く、「水鳥の里」として紹介している地図サイトもある。越冬するカモの飛来が9月から始まっており、3月頃まで冬鳥観察の最盛期。佐野橋のたもと、南小学校児童にとって、水鳥など野鳥は教材だ。野鳥の楽園が維持されたのも、同小児童が関わっている。

昔から鳥が多い、格好の銃猟ポイントだった。銃で「軽トラックの荷台一杯分取れた」という話があるくらい。児童の通学路の加古川堤防に、空の薬きょうが多く落ちており、当時の校長が危ないと、地域に働きかけ、県の「鳥獣保護区」になったようだ。同校の記録によると昭和45年度(1970)に「職員野鳥研修」が開かれており、保護区指定時期はこの前後とみられる。地域から、鳥が農作物を荒らすと苦情が出て、平成4年度(92年)に県の「特定猟具使用禁止区域」に。「保護区」より規制が緩くなったものの、銃猟禁止は続いている。

南小のロビーに飾られている水鳥の絵。制作年代は不詳だが、色あせ、歴史を感じさせる

同年度に愛鳥教育振興基金でスコープ2基を購入、翌年度に県の愛鳥教育モデル校指定。94年度(平成6)は自治振興会が観察用東屋を設置した。

96年度(平成8)から3年間、教頭を務めた松井久信さん(74)は「図書室からスコープで鳥を観察した。図鑑に載ってる鳥が目の前にいるよと、教えた」と懐かしむ。この時のPTA副会長で、日本野鳥の会の会員だった梅津節雄さん(72)と意気投合、PTA仲間や近所の人と立ち上げたのが「沼貫野鳥の会」。現在も続く「丹波野鳥の会」の前身だ。

二人は、環境省の「ガンカモ類の生息調査」で、毎冬、丹波地域の河川や湖沼で個体数を調べている。25年ほど前は、佐野橋―錦橋間に600―700羽ほどいた鳥が、半数以下に減った。川の流れを良くする工事で身を隠し、羽を休める環境が損なわれた。それでも淵があり、銃で狙われない「安全地域」。今でも調査地点中、数が一番多い場所は「水鳥の里」という。

関連記事