丹波地域に住む30歳代の男性。 午後5時15分ちょうどに本業を終えた彼は、 そのまま次の仕事場に向かう。 午後10時ごろまで働くため、 体は疲弊し切っているが、 「家族のため」 と働き続ける。
疲れ果てて家に帰り、 すやすやと眠る子どもたちの寝顔に向かって話しかける。 「お父さんは、 今日もがんばっとるで」
男性は、 本業の工場で 「ノー残業」 が打ち出されたため、 やむなく副業としてアルバイトを始めた。 会社には黙っての副業だが、 ローンや生活費を考えると働かざるを得ない。
男性は、 「このままでは、 本業も副業もいつ失うかわからない」 とため息交じりに話す。
柏原公共職業安定所によると、 4月は、 求人数1011人に対し、 求職者は2736人。 求人倍率は0・37で、 1996年からの記録では過去最低の情勢だ。
「これまでに経験したことがない急速な落ち込みで、 またその幅も大きい」 と話すのは丹波地域に拠点を置く製造会社。 今年1月には、 経常利益が赤字に転落した。 5月の売り上げは、 前年同月比の約半分。 落ち込みのピークは3月で、 同約60%減だった。
役員、 管理職は給与約10%以上カット、 夏のボーナスは全従業員約40%減、 派遣労働者の削減―。 不況のあおりを数えればきりがない。
「正社員の雇用だけはなんとしても維持したい」 と、 休業手当の5分の4が助成される 「中小企業緊急雇用安定助成金」 の制度を活用。 2、 3月では全従業員を対象に、 毎月4日間休業した。
同社は、 「落ち込みは2、 3月で底打ちしたと見ている。 今秋には前年好調時の7割程度には回復しているだろう」 と、 今後の景気浮上に期待感を込める。
「不況、 不況と嘆いていても始まらない」。 将来に備えて技術力の強化、 新製品の開発、 海外などへの販売先の新規開拓に力を入れている。
雇用者には、 「中小企業向け融資制度の拡充」 などを、 失業者には、 「緊急雇用就業機会創出事業」 「ふるさと雇用再生事業」 と、 県も景気・雇用対策事業を次々と打ち出したが、 抜本的な解決は難しい。 丹波地域で雇用事業を活用し、 職を得たのは、 これまでに約40人だった。
このような情勢の中で行われる知事選。 前出の男性は、 「もっとまちに元気がでるような施策をお願いしたいが、 正直選挙どころではない」 と話し、 同社は、 「新知事に求めることは、 今のところわからない」。
不況のあおりは、 選挙への関心にも影響を及ぼしそうだ。
(森田靖久・太治庄三)