県立柏原病院の西崎朗副院長 (54) =消化器内科=が、 初期の胃がんなどについて、 より広範囲ながんを一括切除できる最新の内視鏡治療 「ESD」 (内視鏡的粘膜下層はく離術) を用い、 患者の治療にあたっている。 西崎副院長は、 前任の県立がんセンターに同術式を導入し、 指導を含め1000例以上を手がけた県内第一人者。 着任に合わせ、 機器も更新。 「最新鋭の機器を用いた最新の診断、 治療を通し、 この地域の消化管がんを撲滅したい」 と意気込んでいる。
従来からの内視鏡手術 「EMR」 が、 内視鏡の先から輪になったワイヤーを伸ばして病変部分を切り取るのと異なり、 ESDでは、 主に 「ITナイフ」 と呼ばれる電気メスで、 病変の周囲を切った上、 病変部分の下にメスを差し入れ、 はがすように切り取る。
EMRは、 ワイヤーを引く時に病変からずれたり、 一度に全部取りきれず、 取り直さねばならないケースがあった。 ワイヤーのサイズにも制約があり、 2センチ以下の小さな病変に限られていた。
1本のメスで任意の大きさで切り取るESDは、 一度に病変を取る確率がEMRより高く、 より大きな病変が取れる。
一度に病変部分を切除する方が、 がんの広がりや深さ、 転移の可能性などを評価しやすく、 再発防止につなげやすい。 西崎副院長は、 「ESDは、 一括切除率が98―99%。 EMRは高くても6割程度」 とESDの優位性を語り、 「粘膜の深い層、 筋層とのぎりぎりの所まで内視鏡で見ながら確実に切れる。 外科手術と比べ身体的負担が少ない内視鏡で、 取れる限りは取ってあげたい」 と言う。
ESDの短所は、 技術が難しく、 手術時間もEMRよりかかる点で、 術者の技術熟達が必要。
現時点の学会の標準治療では、 ESDもEMRも▽2センチ以内の小さながん―など、 適応基準は同じだが、 ESDは患者に説明し了解を得た上で、 より大きながんでも行える。 西崎副院長自身、 がんセンターで2センチより大きい手術をESDで行ってきたが、 術後10年以上経過しても再発は生じておらず、 内視鏡治療の可能性の広がりを実感しているという。
西崎副院長の就任に合わせ、 高倍率のズーム機能がついた 「拡大内視鏡」 と、 光の波長を調節することでボタンひとつで病変部分を浮き上がらすことが可能な 「NBIシステム」 を導入。 拡大内視鏡、 NBIによってがんの表面が見やすくなり、 診断能力が向上した。
拡大内視鏡で、 内視鏡手術で取れるがんか、 外科手術が必要かの見極めがしやすくなり、 NBIでは、 特に食道や大腸の病変が認識しやすくなる。
「まずは早期発見。 そして早期治療。 内視鏡検査や、 初期胃がんの内視鏡治療は、 がんセンターと同じことが柏原でできることを知ってもらい、 利用してもらえれば」 と話している。
西崎副院長は、 1983年神戸大学医学部卒。 大学の医局派遣で、 84―85年の2年間勤務した須磨赤十字病院で、 玉田文彦元柏原赤十字病院長に教わったのが内視鏡 (EMR) との出会い。 1990年から今年4月に県立柏原病院に着任するまでの23年間、 県立がんセンターで勤務した。
95年、 早期がんを見つけるより良い技術を身につけようと、 国立がんセンターに3カ月間国内留学した際、 ESDの原型に出会った。 関西で最初に、 ESDを確立する研究会の会員となるなど、 黎明期からESDに携わっている。 これまでに、 指導を含めた症例数は、 胃がん800例超、 食道がん200例超、 大腸がん20例超を手がけた。 日本消化器内視鏡専門医・指導医などの資格を持つ。