「MINERVA-Ⅱ1」開発チームに参加 足立忠司さん(下)

2018.10.25
ニュース丹波市地域

「ミネルバⅡ1」が撮影した小惑星「リュウグウ」の表面画像(JAXA提供)

(上)
地球から2億8000万キロ離れた位置にある小惑星「リュウグウ」を探査している探査機「はやぶさ2」から分離し、世界で初めて小惑星の表面に着陸した小型移動探査ロボット「MINERVA(ミネルバ)―Ⅱ1」の開発に携わった兵庫県丹波市春日町野上野出身の足立忠司さん(69)=東京都=。初代はやぶさで小惑星「イトカワ」に送った探査ロボットは、イトカワにたどり着けずに今も太陽の周囲を回るが、2度目の挑戦で、見事にミッションを達成。宇宙のかなたで偉業を成し遂げた。

2010年、初代はやぶさが地球に帰還した後、はやぶさ2の開発プロジェクトがスタート。宇宙航空研究開発機構(JAXA)や企業、大学で構成する「ミネルバⅡ1」の開発チームには、IHIエアロスペース社退職後、株式会社「セシアテクノ」を立ち上げていた足立さんも名を連ねることになった。

狙ったのは高価な機器だけでなく、安価な民生品も取り入れること。民間の中小企業の技術を活用する新しい挑戦だった。

また、無重力に近い抵抗を想定した実験では、家庭でも使われている潤滑剤を使用するという方法を考案するなど、独自の発想で何度も実験を繰り返した。

14年12月、ロケットで打ち上げられたはやぶさ2は、今年6月、リュウグウの上空20キロに到達。9月には、ミネルバⅡ1が投下され、着陸に成功した。

ミネルバⅡ1に搭載されている2機の探査ロボット「ローバ」は、モーターを回転させた際に発生する反作用で、リュウグウの地表をホップ(跳ねる)して移動し、画像を撮影。はやぶさ2を介して、地球に画像を送信した。

ミネルバⅡ1の着陸成功を会議中に電話で受けた足立さん。「初代はやぶさの時から、『着陸に成功したら世界初だ』という声はありましたが、実際に着陸したのを聞いて出たのは、『あぁ、良かった』でしたね」と言い、「感動よりも、無事に到着し、苦労が報われたという思いの方が強かった」と振り返る。

感動したのは、送られた画像を見た時。全長900メートルで重力が小さい小惑星に、なぜあんなに小さな岩石がとどまっているのか。「新しいデータが取れたことにこそ価値がある」と理学部出身者の顔を見せる。

宇宙史に残る快挙の一翼を担ったものの、宇宙開発は「まだまだ」と語る。

開発に参加した「ミネルバⅡ1」が撮影した画像を眺める足立さん=神奈川県相模原市の宇宙科学研究所で

「ロケットで到達できるのは、いわば地球の庭先。まだ、私たちは『かごの中の鳥』で、かごから抜け出し、宇宙を飛び回るためにはまだ見ぬ新しい技術が必要になる。それは映画などで出てくるワープ技術かもしれない。私が見るためには何度か生まれ変わらないといけないかもしれないけれど、夢が広がります」

丹波市の実家には毎年、数回は帰っており、「放っておくとすぐに草が伸びるので、草刈りが大変」と苦笑い。生まれ育った故郷の子どもたちには、「部下にはいつも『世界で初めては簡単なこと。世界には誰もやったことがないことがたくさんある』と言ってきた。世界は広いし、ぜひ、世界というレベルで物事を考えてほしい。大切なことは、『思い続ければ、夢は必ずかなう』ということだと思っています。私もまだまだやってみたいことがたくさんありますから」とほほ笑んだ。

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