今年4月から、兵庫県篠山市今田町下小野原の今田小学校の昇降口を入ってすぐの空間に、月替わりで季節や行事に応じたディスプレイが登場している。1月から校務員として同校で働いている安藤忍さん(64)=同市東本荘=がボランティアで、家族総出で制作しているもので、まるで百貨店の催事場やお店のショーウインドーのよう。安藤さん一家は、「先生や子どもたち、保護者のみなさんが喜んでくれることがやりがい。夢や希望を感じてくれるような場所になれば」と笑顔を浮かべている。
七夕や海水浴、運動会、ハロウィンに紅葉狩り―。来校者を出迎えるディスプレイは季節感に富み、愛らしい作風は大人も子どもも笑顔になる。
長年、銀行に勤め、定年を迎えたことを機に今年1月に郷里の篠山市に戻った安藤さん。学校校務員事業を受託している一般社団法人「ウイズささやま」に勤務し、今田小の校務員となった。
同校の昇降口付近には、採光のためにガラス張りの吹き抜けになっている空間があり、これまでは地域の伝統産業である丹波焼の壺や置物、備品などが置かれていた。
校舎の大規模改修に合わせて高森俊広校長が、採光空間を「明るい内庭のようにしたい」と考え、安藤さんに相談。安藤さん自身は装飾や展示に関心がなかったため、芸術系大学の出身で、ものづくりが好きな娘、優子さん(31)に投げかけた。
優子さんは、西宮市社会福祉事業団に勤務しており、児童館で子どもたち向けの仕事をしていることもあって、「やるなら子どもたちに夢と希望を与えるようなものに」とディスプレイの制作を始めた。
優子さんが原案を考え、安藤さんや妻の栄さん(64)、息子の健一さん(28)も制作に参加。家族総出で制作に取り組むようになり、4月からほぼ毎月、ディスプレイを変えてきた。
当初は優子さんの指示を受けていた家族も、少しずつ意見を出すように。栄さんは、「道を歩いている時やお店に行った時など、『こんな風にしたらどうか』と考える日々。全員が同じ思いで制作にかかっています」と言い、家族が一つになるという効果も生んでいる。
今月2日には、クリスマスのディスプレイに変更。ガラス張りのスペースには家々を訪ねるサンタクロースを配置したり、昇降口の一角にもクリスマスツリーやトナカイが引くそりなども設置し、いすに座ればそりに乗っているように見えるなど家族の工夫と思いが詰まったディスプレイを施した。
高森校長は、「子どもたちも毎月大喜び。想像以上のものにしていただき、本当に感謝している。子どもたちが学校に行くのが楽しいと思う場所になれば」と話す。
高校卒業後、仕事の関係で、東京や大阪で生活してきた安藤さん。年を重ねるにつれて日増しに郷里への思いは強くなっていったと言い、「両親はずっと篠山で暮らしているし、お世話になった地域に恩返しがしたいという思い。いつまで続けられるかわからないけれど、子どもたちのためにという一心です」とほほ笑む。
今後の目標は、「草刈りなど、清掃のプロになる」と、校務員の仕事の基本を極めることを宣言する安藤さん。「これからも地域のために何か力になれたら」と話している。