兵庫県篠山市内にある元遊郭の建物「大正楼」で27日、行政代執行による除却作業が始まった。執行宣言を行った後、動産の運び出しや内部の状況の確認を行い、今後、本格的な取り壊し作業に着手する。大正楼は、昭和初期に愛人の男性を殺害した「阿部定」が最後に遊女として勤めた場所。
建物は木造瓦葺き2階建てで、延べ床面積は342平方メートル。以前から老朽化が激しく、瓦が落ちてきており、一昨年、地域住民が市に相談。市は所有者に指導していたが、昨年8月の台風で大半が崩れ落ちた。12月には空き家対策特措法に基づいて措置命令を出したものの、放置されたため、「特定空き家」に指定し、同市初の行政代執行で取り壊すことになった。
除却費用は約470万円で、所有者に請求する。
同日は、執行宣言後、作業員らが扉を開けて内部に入り、損傷の状況や動産を確認した。
「篠山町七十五年史」によると、大正楼がある一帯は、かつて「京口新地」と呼ばれた遊郭。明治41年(1908)、陸軍歩兵七十連隊が同町内に移転したことに伴って設置されたが、売春防止法が完全施行された昭和33年(1958)までになくなり、現在は、閑静な住宅街になっている。
阿部定が供述した「予審訊問調書」などを収録した「阿部定手記」(中公文庫、前坂俊之編著)などによると、定は昭和6年(1931)から半年ほど大正楼に勤務。過酷な仕事のため逃亡している。
5年後、定は、愛人の男性を殺害。逮捕された。服役後に出所し、昭和46年(1971)に失踪し、消息不明となっている。