人も犬も差別しない―。兵庫県内陸部の丹波市氷上町福田にこのほど、1500坪のドッグラン、繁殖施設、ペットホテルを備える犬の総合施設「丹波マザーガーデン」が開業した。大阪市から移住したオーナー・あげは美樹(みじゅ)さんは、特定疾患を併発している難病患者で、施設スタッフには性的少数者(LGBT)も。また、繁殖用でない、家族として飼っている犬の半数には何らかの障がいがある。あげはさんは、「人も犬も、病気や障がいを理由に差別しない」がポリシー。自然に囲まれた広い土地で、人も犬ものびのびと生活を送っている。
「健常でない犬もペットとして」
大阪を拠点に芸能活動などを行っていたあげはさんは、ある日、「全身性エリテマトーデス」と「特発性血小板減少性紫斑病」という免疫・代謝と血液の特定疾患を併発。発症時には、「余命3日」と宣告され、命はつないだものの、丸1年の入院を含む10年の闘病生活を送った。現在も治ってはいないが、自身の体調と折り合いをつけながら暮らしている。
発症後、幼少の頃から好きだった犬に関わる事業を大阪市内で開業、より広い土地を求め、犬舎を丹波市に移した。
LGBTのスタッフが施設管理責任者
農地、林地付きの木造住宅に、スタッフと自身、家族の5人で暮らす。犬は18頭で半数が繁殖用。住宅の1階は、ゴールデンレトリバー、バセットハウンド、イングリッシュブルドックの繁殖施設兼ペットホテル。家の周囲をドッグランにしている。
山裾から農地まで高低差がある広い土地で犬が元気に走り回る。ドッグランは予約制で2時間貸切。来月、試験を受け、訓練所機能も付加する予定。
また、犬を飼っていない人も遊びに来られるよう、あげはさんのペット犬らと触れ合うイベント日を設けている。
9頭いるペット犬の半数が、てんかんや、視覚、聴覚などに障がいがある。「繁殖する中で、健常でない犬が生まれたとしても、ペットとして飼い続けられる広い土地が欲しかったことが移住理由の一つ」と言う。
「障がいの有無うんぬんは、健常者の世界の話。私も病気があり、一般就職はできない。だから働く場を作った」と話すあげはさん。「うちは、制約が少ない施設。犬に救われる人間は多いので、興味がある人に遊びに来てもらえれば」と言い、「家が密集していない事が何より。マムシやシカは出るが自然の中で生きている実感がある」と、気に入っている。
同施設管理責任者でチーフブリーダーの富島望さんは、生まれた性別は女性だが、心が男性という性同一性障がいの診断を受けている。歌手時代のあげはさんの熱烈なファンで、スタッフに加わった。
富島さんは「性別の事で以前は悩んでいた。障がいがあるからしたいことができない、とかではない世界や考え方があることもここから発信していけたら」と話している。