平家の落ち武者にまつわる「五輪塚」に気軽にお参りしてもらおうと、兵庫県丹波篠山市後川地区の篭坊自治会が、山中にあった五輪塚を山のふもとに移設した。単なる”お引っ越し”ではなく、移設を計画した地であらかじめ、地域住民が祠や石垣、池をこしらえるなど趣向を凝らした整備を行った上での移設。このほど移設先で開眼法要が営まれ、地域住民15人ほどが静かに手を合わせた。
女性の姿を刻んだ石碑と、丸い石を積んだ塔を移設し、これらを石の祠で囲った。さらには周囲に石垣を組み、石囲いの池を設けたほか、大きな石燈籠も設置した。
同地は1184年、一ノ谷の戦いに敗れた平家の落ち武者が隠れ里にして傷の手当てをしたと伝わっており、その平家にちなむ五輪塚は、隣接の同県川辺郡猪名川町との境にある「篭谷」にあった。毎年3月、地域住民がお彼岸のお参りをしていたが、険しい山道を進まないとたどり着けない場所にあった。
多くの人にお参りをしてもらおうと、同自治会の山田正洋さん(76)が発起人となり、山のふもとに五輪塚の移設を検討。住民の賛同を得た上で、同自治会の山田昌治さん(82)が移設工事に尽力し、立派な“お引っ越し先”を整えた。
開眼法要では、清陰寺の植田洋道住職が読経する中、住民が五輪塚に線香を手向けた。
山田正洋さんによると、石碑の背面には「安政五年十二月 篭坊婦人会建立」と刻まれているという。山田正洋さんは「当時、婦人会があったことにも驚き。粗末にしてはいけないということで、今後のことを考えた上で移設を呼び掛けた。立派なものができてうれしい」と笑顔を見せた。
日下宏自治会長(62)は、「60年ほど前にも移設の話が持ち上がったが、当時は実現しなかったと聞いている。令和になり、自治会一丸となれる事業になった。地域の守り神として大切にしていきたい」と話していた。