市民が守った看護学校 廃止決定も知事に直訴し「存続」に 新校舎で2学期開始

2019.09.03
ニュース丹波の地域医療丹波市

旧校舎にはなかった食堂で打ち合わせをする在校生。以前は、昼食は教室か廊下で食べていた=兵庫県丹波市氷上町石生で

兵庫県丹波市立看護専門学校(同市氷上町石生)の新校舎の利用が9月2日に始まった。同校は、県が廃止を決定した後、市民が県知事に直訴したのが直接の契機になり、2015年4月、丹波市に移管され存続した「市民が守った専門学校」。県から引き継いだ旧校舎から新校舎に移る今、市内唯一の高等教育機関の移管を巡る舞台裏を振り返り、これからを展望する。

「えらいことになりよったけど、存続できて何より。お医者さんだけで医療はできないから、看護師さんを育てられ良かったと思う。若い人が集まってくれ、ありがたい」と喜ぶのは、同校存続の立役者、荻野美代子さん(同市柏原町)。元婦人会長で、丹波地区赤十字奉仕団長だった荻野さんの訴えが、知事を動かした。

 

一度は行革で廃止決定「相手にされず」

同校の前身の県立柏原看護専門学校(同市柏原町柏原)は11年10月、県の行政改革で、同県淡路市の県立看護専門学校と共に「15年3月末で廃止、13年度から新規学生の募集を停止する」と公表された。

隣接する県立柏原病院の付帯施設として1971年に開校、約1400人の卒業生を出した同校。卒業生の県立病院就職者が減り、県立病院で勤務する看護師を育成する開設趣旨に合致しない、が廃止理由とされた。

廃止が寝耳に水だった市議会は「看護師不足が解消されない」「若者が100人いなくなるのは地盤沈下を招く」と反発。市長と共に県に存続を求めたものの、検討段階でなく決定事項と、相手にされなかった。

 

2度の「お願い」、知事に手紙も

2学期の9月2日から利用が始まった新校舎

市に移管の相談もなく、廃止。市から看護専門学校が消えることは免れず、地域の看護師不足の深刻さが度合いを増すと見られていたが、2012年4月、野田佳彦首相の丹波市訪問が転機になった。

地域医療を守る住民運動として全国に名を馳せた同病院の小児科を守る会の首相視察に同席した井戸敏三県知事に守る会代表が手紙を手渡した。看専の必要性を訴え、県の代わりの受け皿を考えてと求めたことが、結果的に布石になった。

2カ月後の6月、荻野さんが、日赤県支部の評議員会で同席した井戸知事に閉校の再考を切々と訴えた。知事は「守る会からもその話は聞いている」とし、「地元の熱い思いは分かった」と、その場で荻野さんに「行革でやむなく閉校するが、総点検する」と約束。知事の決断で、廃止から一転、市に移管し、同校を存続させる道が開けた。県は経営から手を引き、「行革」の体裁を保った。

「閉校」を文部科学省に知らせており、迅速に移管手続きを進め、学生募集を始めなければ、1学年空白が生じるなど不具合があり、守る会の手紙から4カ月、荻野さんの直訴からおよそ2カ月後には、県市の基本協定が結ばれる、異例のスピード決着を見た。

市は当初、県立県営で存続を望んでいた。看専の経営経験がないことや後年度の財政負担への懸念から市立移管に及び腰だった市に、県は手厚い支援を約束。新校舎整備費、毎年の運営費の補助、教員派遣などを示し、「空白」を生じさせることなく、移管にこぎつけた。移管に関わった辻重五郎前市長は「知事に、金食い虫と言われた。今思えばうまくいった」と苦笑いする。

県の大盤振る舞いとも言える支援で、新校舎と看護学生寮(JR石生駅前、ワンルームマンション30室)の整備費約15・3億円(備品込み)のうち、市の持ち出しはわずか2億円。県負担は約4億円。合併特例債を活用し、残額は国から交付税が下りてくる。

毎年の運営費も、授業料や交付税収入を除いた赤字額の約3分の1を県が支援。17年度で県は約4300万円を負担、市の持ち出しは約1・1億円で済んでいる。

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