全国で事故が相次ぎ、実施の是非が問われている運動会や体育祭での組体操。兵庫県丹波篠山市内でも年々、実施校が減っており、今月14日から始まる今年度の運動会や体育祭では、小学校14校中8校(前年比4校増)が、中学校では5校中2校(同1校増)が組体操を実施を取りやめた。また、実施校でも危険度の高いピラミッドなどの段数を減らすなど、安全に配慮している。市教育委員会は今年度初めて、自主計画書を作成し、実施校に配布して組体操の細かな内容や指導方法の把握に努めているが、現場の教師たちにはいまだに賛否がある。
練習計画など「自主計画書」を作製
同市教委は以前から、各校の組体操の実施状況を把握していたが、演目などの細かな中身までは把握していなかった。
今年度、県教委から各校における組体操の指導上の留意点を把握するよう努めるようにとの通達があったことから、▽実施種目▽練習計画▽安全指導ポイント▽安全体制構築ポイント▽児童・生徒への配慮するべき点▽演技完成図(簡単なイラスト)―を問う自主計画書を作成。組体操実施校に配布し、実施日の1カ月前までに計画書の提出を求めた。
組体操を巡っては文科省が2016年、当時、組体操で年間8000件以上の負傷者が出ていることを問題視し、各都道府県教委に対して、事故防止の徹底を通達。その後、各地で組体操が減少しつつある。日本スポーツ振興センターのまとめでは、組体操による災害共済給付医療費の支給件数は16年度に8592件だったのに対し、昨年度は4146件に減っている。
保護者も賛否両論、現場「板挟み」
現場は組体操を巡る昨今の情勢をどう感じているのか。
組体操の実施を取りやめた小学校の校長は、「保護者の声も賛否両論ある。安全を優先して実施したら『見ていてもつまらない』と言われ、難易度を上げて取り組むと『危ないことをさせて』と言われる。また、教育委員会からも細かな計画書を出すよう言われ、学校現場は板ばさみの状態だ」と話す。
また、「私個人の考えでは、子ども同士が団結し、しんどくても仲間のために踏ん張る、我慢する、そして演目を終えたときに味わえる達成感と充実感が運動会の意義であり醍醐味。それらが将来、困難を乗り越える馬力にもなるのだが」と力を込める一方で、「だからといって、けがをさせてしまうのはもってのほか。安全でありながら見栄えの良い演目を模索しているところ」と複雑な胸の内を吐露する。
同じく中止した中学校の校長は、「組体操で得られる教育的効果は大きいが、それ以上にリスクが大きい。集中力を維持できないほど暑い近年の気温も中止の判断を後押ししている。組体操の代わりに、ダンスや行進を中心とした集団演技に取り組む」と話す。
今年も実施する小学校長は、「力を合わせて『きれいなもの』『力強いもの』をつくる組体操は、子どもたちに大きな達成感をもたらす。しかし、子どもたちに無理はさせない。練習中、無理だと感じたら臨機応変に形を変え、できる形で取り組む。過去に行っていた7段ピラミッドや4段タワーなどは、高さを半分ほどにして披露しようと考えている。ただ、世論など周りの状況を鑑みると、来年は中止するかも」と話している。
安全確保困難、熱中症も懸念
隣接する同県丹波市でも、昨年度までは市内小中学校のほぼ全校で実施していたが、今年度は、22小学校のうち14校が、7中学校のうち5校が取りやめる。
組体操をやめる学校は、安全確保の困難さを第一に挙げ、熱中症への懸念や、「集中できず、危ない」と9月上旬の暑さもかんがみた。
組体操を実施するある学校は、今年も3段タワーを作るが、昨年まで1、2年生も作っていたものを、3年生のみ、各クラス1基の5基に減らす。より教師の目が行き届くよう配慮したという。
これまでの組体操の危険性を指摘し、リスクを減らした安全な組体操を提言する名古屋大学の内田良准教授の講演を聞き、日本体育大学らが作った「安全な組体操」のDVDを見るなどして研究した。
同校の校長は「時流を無視する訳ではないが、4月から体幹トレーニングを取り入れるなど、備えてきたし、協力することの大切さや達成感など、組体操を実施することの意義を認める。やめれば問題解決、ではないだろう」と言い、練習、本番とも無事に終えられるよう願っている。