改正入管難民法が今年4月に施行されるなど、外国人労働者の受け入れが拡大している。中でも受け入れが最も多いと見込まれるのが介護職だ。そんな中、兵庫県丹波篠山市南矢代の外国人介護福祉士養成校「篠山学園」でこのほど、初めての卒業式が開かれた。巣立ちの日を迎えたのはベトナムや台湾、ネパールの23―39歳の女性6人。全員が日本国内の介護福祉施設に就職する。「日本介護福祉士養成施設協会」(東京都)によると、在校生全員が外国人という養成施設は珍しいと言い、卒業に至るまでの日々は試行錯誤の連続だった。そんな困難を乗り越えた女性たちが、深刻な人手不不足に悩む現場の力になるよう、一歩を踏み出した。
授業はすべて日本語
「大変なこともあったけれど、すばらしい出会いもありました。新しい一歩を踏み出すことになりますが、利用者に寄り添い、喜んでもらえる介護福祉士を目指します」 卒業生を代表して答辞を述べたベトナム人のゴ・ティ・ホン・ニャさん(25)が力を込めた。
同県西宮市の社会福祉法人「ウエルライフ」が運営する同校は、2017年、旧篠山産業高校丹南校の校舎を活用して開校。日本人も入学できるが、基本的にはベトナムを中心にアジアの女性留学生を主な対象とした2年制の全寮制介護福祉士養成施設で、1学年の定員は80人。現在、卒業生を除く96人が学び、10月には45人が入学する予定となっている。
1日8時間の授業はすべて日本語。生活支援技術や障害、認知症の理解など、介護の専門知識のほかに、日本の社会や生活、文化についても学ぶ。
生徒たちは、提携している現地の日本語学校で事前に日本語を学んでいるほか、来日後も半年間は日本語学校へ通学してから入学する。
また、週のうち3日は介護施設でアルバイトをし、技術だけなく、方言も含めた日本語を学ぶ。利用者と深く接する介護には、専門知識に加えて日本語でのコミュニケーションが欠かせないからだ。
無利子の奨学金を渡航費や授業料に充て、卒業後に返済することになっている。
渡航時に困難も
外国人の介護職を求めている背景にはあるのは、超高齢化社会と、深刻な現場の人手不足。厚労省によると、2025年には日本国内で4人に1人が75歳以上となる一方、介護職は同年度末で約55万人が不足すると見込む。少子高齢化に加え、介護職を選択する日本人が激減しているからだ。
こうした状況を受け、国は介護職員の処遇改善や離職防止などを掲げており、外国の人材の受け入れを行うことも大きな柱にした。
「社会福祉士及び介護福祉士法」の改正で、21年度までの養成校卒業生は、卒業後5年間、在留資格が「留学」から「介護」となり、5年以内に国家試験に合格するか、5年間連続して介護職に従事した場合は、以後も在留資格を有することができる。
同校は関連法の改正に合わせて設立。ただ、動きが早かったからこその困難もあった。
2年前、同校が初の留学生を受け入れる際には、日本で、しかも全員が外国人という養成施設珍しかったため、生徒の大半が渡航できず、入学予定者の多くで入学時期に遅れが出た。
また、勉強しているとはいえ、慣れない日本語で専門知識を学ぶことは、生徒たちにとってつらい日々でもあった。同校は、「自分たちも手探りだった。卒業後の国家試験対策など、生徒たちの学びたいことに応えられていたか、反省しなければならないことも多い」と振り返る。
「日本と母国の宝」
そうして迎えた初の卒業式。在校生代表による祝い太鼓が披露されたほか、「仰げば尊し」や同校の応援歌「わたしはここにいるよ」などを全員で斉唱して門出を祝った。
同法人の木曽賢造理事長は、「大変な苦労だったと思う」と卒業生をねぎらい、「夢や希望、目標を持って。日本にいるのもいいし、能力を高めて母国に帰って、力を発揮してほしい」と激励。飯森裕行学園長は、「みなさんは日本にとっても母国にとっても宝物。一期生のみなさんの働きぶりや生き方は後輩のあこがれにもなるし、日本の若者にも刺激になるはず」と期待を込めた。
現場スタッフ歓迎
卒業後、市内の施設で勤務することになったグエン・ゴック・ユェンさん(29)は、「先生たちには勉強だけでなく、生活のことも教えてもらい、とても楽しかった。ご飯もおいしくて、少し太りました」と笑顔を見せ、「施設の利用者のみなさんは、自分のおばあちゃんやおじいちゃんのように思える。仕事は大変かもしれないけれど、これからがんばって日本で働いていきたい」と話していた。
ある市内の介護施設スタッフによると、人員は足りておらず、スタッフの休みが重なればほかの施設に応援を頼むなど、「大変なことになっているのが現状」と言い、「給料が安いことや、介護へのイメージがよくないこともあってか、最近は若い人が来ない。退職前後の人は体力に課題がある」と嘆息。
そんな中での卒業生の誕生には、「実習で施設に来ていたのを見たことがあるけれど、とても一生懸命、仕事をされるという印象。文化の違いなどで課題はあるかもしれないが、来てもらえるならば、現場としてはとてもありがたい」と歓迎していた。