一度は廃止が決まったものの、市民が知事に直訴したことがきっかけになり、県から市に移管された上で存続した兵庫県丹波市の「市立看護専門学校」(同市氷上町石生)。先月行われた同校のオープンキャンパスで、同校の教職員は「看護専門学校に合格したら看護師になれる、就職先も見つかるとはくれぐれも思わないで下さい。入学してからの努力が大切です」と語りかけ、付き添いで来校した保護者に釘を刺した。
同校の前身の県立柏原看護専門学校(同市柏原町柏原)は2011年10月、県の行政改革で、同県淡路市の県立看護専門学校と共に「15年3月末で廃止、13年度から新規学生の募集を停止する」と公表された。しかし、市民グループらが井戸敏三県知事に学校存続を要望する手紙を渡したり、直訴するなどして必要性を切々と伝えた結果、知事の決断で廃止から一転、市に移管しての存続が決まった。
全員が国家試験合格の年も
この「市民が守った学校」は、1年生の後半から毎週単位がかかる試験が2、3ある。3年生になるとほぼ実習になる。3年課程の看専はスケジュールがタイトで、学業がハードだ。
開校以来の市立看専の卒業生は、今年3月末で131人を数える。看護師国家試験合格率は、全国平均を上回り、不合格になるのは学年に1人か2人。全員が合格する年もある。丹波市内で就職したのは34人。このうち30人が県立柏原病院に、4人が香良病院(同市氷上町香良)に就職した。
県立丹波医療センター小児・産婦人科病棟で勤務する入職2年目の高橋静江さん(38)=丹波市=は、家庭があり、他の県立病院勤務は難しい事情があった。「私の事情を汲んだ上で、エントリーシートの添削や、面接指導を具体的にしてもらえた」と、看専教員の細やかな指導で「無理かなと思っていた県立に合格できた」と振り返る。
同病院外科系病棟で勤務する藤原詩菜さん(22)=同県多可町=は、高橋さんの級友で同期入職。「先輩が発言を求めてくれ、いろんなアドバイスをもらえる。看護師として成長できるいい病院なので、一緒に働きましょう」と後輩にエールを送る。
香良病院は、以前は出産、子育てなどで退職した看護師の再就職先だったが、毎年1人ずつ同校の新卒者が就職するようになった。石井敏樹同病院長は「若い人が来てくれると、病院が活気づく」と喜ぶ。研修への参加や学会発表など、学べる環境を整え、定着に向け心を砕く。
「県立」合格は5割以下に
丹波市内就職を望む生徒は多いが、毎年10人程度で推移している。県立病院への就職を希望したもののかなわず、近隣市を中心に、市外の医療機関に職を求める卒業生も多い。看専生に1番人気の県立病院の採用試験の倍率が近年2倍ほどに上昇、同校からの合格は2人に1人に届かない。
医療センターの看護師が臨床講義をし、同病院で大部分の実習を受け入れているが、県立の採用試験は全病院一括。「地域枠」はない。講義を受け持つ高井裕美看護部長は「採用試験は、論文と面接。学力試験ではないので、考え方などが問われる。日頃の積み重ねが大切」と、教え子の奮起を促す。秋田穂束医療センター院長は「地元の人に支えてもらうのが一番」と、隣接する看専からの合格者増に期待し、学生の県立で働きたい気持ちをより高める仕掛けづくりを思案する。
丹波市のハローワーク柏原によると、医療機関のほか、介護施設、認定こども園が看護師を求めており、管内の6月の保健師・助産師・看護師の有効求人倍率は、フルタイムで2・47倍、パート1・63倍と人材不足感はある。これらの職場は即戦力人材を求め、技術や知識をこれから身につける新卒者とは双方のニーズが合わない。学校が残り、地元に看護師資格の有資格者が増えることで、将来の再就職先などに考慮され、看護師不足が緩和・解消に向かう期待は持てる。
足立育子校長は「学習環境は素晴らしいものになった。しっかり学び、社会の役に立つ看護師に育ってほしい。夢や希望をかなえるために努力を」と願いを語った。