日本遺産やユネスコ創造都市のまち、兵庫県丹波篠山市の城下町内で計画されているホテル建設計画を巡り、元副市長、金野幸雄さん(64)=同市東新町=と、建設予定地の地元住民、加戸仁志さん(53)=同市南新町=がこのほど、市を相手取り、ホテルの開発許可の差し止めを求める訴訟を神戸地裁におこした。
建設予定の「ホテルルートイン丹波篠山」(仮称)は地上3階建てで、建築面積約1500平方メートル。南新町など3自治会にまたぐ予定地は、城下町の一角にあり、国の重要伝統的建造物群保存地区にも隣接しているため、市の条例で原則1000平方メートルを超える開発は認められないが、例外の規定があり、市は「地域の発展に資する」として認める姿勢を示している。
市は「まちづくり審議会」での議論をへて、ルートイン側からの開発申請を待っている段階。市景観室によると、年明けごろに申請が行われ、酒井隆明市長が開発許可を出し次第着工し、再来年の完成になる見通しという。
原告の2人は、「市の総合計画や景観計画など、ほかの条例と今回の開発に整合性がない」「地元住民への説明も不十分」など市の計画や手続き上の問題を理由に、「例外的に開発を認めることは酒井市長の裁量権の逸脱、乱用に当たる」として提訴した。
また、周辺住民が意思決定に参画できないなら「市民のまちづくり権の侵害」としたほか、同審議会で建築や景観、行政法の専門家の委員3人が計画に反対したことを「極めて異例な状況」と指摘した。
副市長時代、まちづくりや土地利用の制度設計に関わった金野さんは、「市は住民の大半が賛成しているというが、必ずしもそうではない。訴訟には声にならない市民の声を代弁するという意味もある」とし、「土地利用計画など全国にまれな制度を持っている。だからこそ、日本遺産やユネスコ創造都市にもなれた。なのに、なぜ、後戻りするような開発を認めるのか」と話した。
加戸さんは、「すばらしい条例があるのに、作った市長、市がないがしろにしようとしている」とし、「原則、開発ができない場所ということは、5月の市民説明会で金野さんが指摘して初めて知った。住民として許せない。ほかの場所に誘導すべきだった」とした。
一方の酒井市長は、取材に対し、「説明は尽くしてきたし、まちづくりに関する条例との整合性も図れているので、正々堂々と正当性を主張したい」と争う姿勢を示し、「観光で活性化していくためにはホテルは一番大事。市民の大多数は賛成しているのは間違いなく、事業者にも景観などにかなり配慮してもらっており、原告の真意を計りかねる」とした。
原告側弁護団によると、判決までには1年ほどの期間が必要。判決が出る時点で施設は建設されている可能性が高い。