コーラスは、誤嚥(ごえん)性肺炎の予防効果がある?―。兵庫県丹波市でこのほど、脳科学を用いて嚥下機能を定量的に評価する方法の確立をめざし、嚥下機能を保持・向上できる方法を実証研究する臨床研修のデータ収集が行われた。合唱や朗読は同疾患予防に効果があると、高齢者介護の現場で言われており、科学的裏付けを取ろうという試み。同市民230人が「ごっくん」と、だ液を飲み込むところの触診、動画撮影に臨んだ。
日本人死因3位の「国民病」、発声と嚥下機能の因果関係調査
誤嚥性肺炎は、食道に入るべき飲食物が誤って気管に入って生じる同疾患。肺炎は、脳血管疾患を上回り日本人の死因の3位。亡くなる人のほとんどを65歳以上の高齢者が占めており、高齢化が進む日本の国民病と化している。
調査は総務省情報通信研究機構(東京都小金井市)の地方創生プロジェクト。脳情報通信融合研究センター長の柳田敏雄博士(72)、AIを使ったデータ解析に詳しい畑豊・県立大教授(58)の丹波市出身研究者のほか、発声で鍛えた喉と誤嚥防止の関係を探る目的から、同市出身のオペラ歌手・足立さつきさんが研究に参画している。
被験者の公募に230人が集まった。言語聴覚士が30秒間、喉ぼとけと舌骨を触診し、だ液を飲み込むようすを2台のカメラで撮影した。
動画を解析し、AIに学習させることで、筋肉の動きと嚥下との関係を調べ、嚥下能力の測定を容易にする研究に役立てる。触診と動画で際立った結果が出た被験者は、2次研究として大阪大学に招き、脳の活動をさらに詳しく調べる。
同研究機構の柏岡秀紀大阪大学招へい教授(55)によると、国民病とも言える同疾患だが、今回のようなテーマで大規模調査が行われることはこれまでほとんどなかったという。
例えば、オペラ歌手の足立さん、足立さんの指導を受けているコーラスグループ「コーロ・ディ・マッジョ」の団員、一般市民と3層の比較研究をし、足立さんや団員が好結果だったとすると、「発声と嚥下機能」に因果関係がある仮説が成立するほか、「高齢なのに高機能、健全な生活を過ごす若者なのに低機能」がなぜ起こるのかを脳科学で解明する糸口がつかめれば、何千人規模で調査をするといった大掛かりな研究に発展する可能性もあるという。
柏岡さんは「夢物語のような話をすると、採点機能付きカラオケのように、歌うだけで自分の嚥下機能が採点されたらおもしろいし、楽しんでリハビリに取り組めるのでは。多くの人に役立つ研究になれば」と期待する。
柳田さんは「被験者を集めるのが一番大事なので、足立さんもいて、高齢者が多い地域柄でもあり、協力者を集めやすい丹波市がちょうど良かった」と言う。「現象だけでなく、脳がどういう仕組みで誤嚥になりやすいのかを明らかにしたい。困っている人がとても多い病気なので、丹波から始まったこの研究が、意義あるものとなることを期待したい」と思いを語った。