兵庫県の地方部、丹波篠山市にある兵庫医科大学ささやま医療センターの分娩休止問題に端を発し、同市内の将来の”産む”について議論が行われている。市は来年4月以降に出産を予定する妊婦に対し、10万円を支給することを決めつつ、「新体制の構築」を検討しているが、市内もう一つの分娩施設で、同センターよりも多くの分娩を取り扱っている同市東吹の「タマル産婦人科」は、「全国的に産科医が激減している中、病院は再編の時代。丹波篠山市だけで考えず、もっと広域的に考えるべき」と指摘する。生川伸二院長(58)に話を聞いた。
産科医激減、広域での連携必要
―兵庫医大の分娩休止についてどう考える
当然のこと。まず、現状をちゃんと理解しなければならない。
1999年の医療事故元年、そして、産科医が逮捕された2004年の大野病院事件以降、産科医は激減した。同年以降は1人医師の病院が撤退し、今は2、3人医師の病院が分娩を休止し始めている。医大や丹波篠山市が特異ではなく、これは県内でも、全国的に見ても同じ流れだ。
そして、医大が撤退する理由には、医師不足だけでなく、少子化の進行があると考える。市内の出生数は年々減り続けており、18年は247人。産科の経営で考えれば、年間150人は扱わないと成り立たない。医大はタマルよりも分娩数が少なく、月に10人ほどだろう。これでは撤退は当然で、そこに貴重な産科医を2人も置くことはできない。タマルも年間150人を切れば休止する。
―市の対応をどう見る
病院再編の時代にあって、もっと広域で他市との連携を考えなければならないのに否定的に見える。
隣接する丹波市に今年、新病院の県立丹波医療センターができたが、産科にはささやま医療センターと同様、NICU(新生児集中治療室)がない。つまり、リスクが高い母子の受け入れはできない。結局、リスクがあれば約40キロ離れた神戸市北区の済生会兵庫県病院まで行かなければならない。
丹波医療センターができる時に、丹波篠山市が近隣市と連携して動いていれば、もっと近くに良い産科ができた。市民は病院の数が減るのは嫌だろう。ただ、減らしたとしても良い病院ができるのなら、そのほうが良いのではないか。市内で産まないといけないという考えを改めるべきだ。兵庫ならば五国(播磨、丹波、但馬、摂津、淡路)くらいの広域で医療を考えたほうがいい。
妊婦タクシーの整備を
―今後、必要な施策は
当然、丹波医療センターや済生会病院との連携も必要になるが、そのためにも都市部などにはある「マタニティータクシー」の整備が必要。健診や陣痛時などに妊婦が24時間呼べるタクシーだ。市がタクシー会社に助成して実施することで、妊婦は手軽に病院に行けるし、タクシー会社も新規事業になる。
そして、根本になる少子化対策をしなければならない。タマルでは一般不妊治療を行っているが、治療を受けた人の大半は妊娠する。現状、丹波篠山市は高度不妊治療に対する助成は行っているが一般はない。一般もカバーすることでもっと出生数は増えるはずだ。
また、看護学校の誘致も効果的だと思う。市が助成して、卒業後、最低でも数年は市内で働くことにする。若い看護師が増え、市内で結婚すれば出生数も増える。
―医大が分娩を休止すれば、タマルで対応できるか
スタッフを増やせば対応できる。過去にも一時的に分娩休止があり、その間はスタッフを増員して対応した。ただ、そうなるならば早く言ってもらわないと困る。前回も突然、分娩が再開され、増員したスタッフには辞めてもらった。
―市に支援は求めるか
個別の支援は求めない。ただ、妊婦健診に対する助成を増額してもらいたい。現在も市は10万1000円を助成しているが、増額してもらえれば十分助かる。
―最後に
今回の問題は、医大の分娩からの撤退ではなく、丹波地域全体の分娩体制、そして、少子化への対策が問題。頭を下げるところは下げ、お金を出すところには出すべき。そうでないと、このエリアの将来は危うい。