兵庫県丹波篠山市にある兵庫医科大学ささやま医療センターの産婦人科分娩休止問題に端を発し、市民も交えて将来の分娩体制を議論している市は、「産科充実に向けての検討会」で、市立の助産所(バースセンター)の開設が可能かどうか、本格的に検討を進めていく方針を確認した。検討会内に専門部会を置き、2月下旬までに具体的な計画案を示す予定。酒井隆明市長は、「近隣の医療機関と連携した助産所があれば、女性にとって選択肢が広がる。兵庫医大にも協力を求めたい」とした。公立の助産所は全国的に見ても数少ない。
助産所は、助産師が主体となって運営。正常分娩のみを取り扱い、定期的な健診は連携する産科医が行う。ハイリスクな妊婦は受け入れず、異常がみられた場合などは連携する医療機関に送る。また、産後ケアやパパママ教室も開く。
助産所で分娩までできるケースと、近隣の医療機関の分娩室を借り、担当助産師が行う「オープンシステム」があり、市はどちらがより実情に合ったものかを検討する。
10月に開かれた検討会では、オープンシステムを活用できた場合の助産所にかかる経費を試算。助産師を常勤4人、非常勤6人などとし、新たに施設(産後ケア用に5床)を建てる場合は、建設費用で約2億3800万円、人件費などの管理費用に約5700万円がかかり、年間96人が分娩した場合、約1100万円の赤字になると推計している。
市は、「助産師主体といっても医師との連携が必要。妊婦や医療機関との信頼関係の上に成り立つ施設」とし、「産科医不足を補うために、医師の仕事を専門職にシフトする動きも出ている。出産は正常分娩の割合が多く、助産師だけで対応できれば、医師の働き方改革にもつながる」と説明した。
医師の委員から、「助産所を否定するわけではないが、税金を投入する以上、市民のニーズを調査すべきでは」「市内の開業医など産科医とも連携しなければならないが、この検討会に産科医はいない。体制を整えて議論すべき」などの声があった。
一方、助産師の委員もニーズ調査の必要性は認めつつ、「産むときは病院でないと不安な人もいるが、オープンシステムなら安心を確保できる」とし、検討会で視察した大阪府高石市の公立助産所の実績を踏まえ、「診察では助産師が1人に長い時間をかけて食事や性格まで把握されており、病院に搬送したのは年間1件ほど。手厚く寄り添うことで、異常も少なく、子育てにもスムーズに移行できる」とした。
市民の委員からは、「高石市は医師や病院のバックアップがあるからこそ運営できている。丹波篠山の場合も、システムをきちっと整備しないと」と指摘する声や、「人口減少の中、今後、産科医が増えないならば、地域の将来のために助産所は『先行投資』とも考えられる」「産後うつや虐待が増え、せっかく産んでも死んでしまう母子が増えている。じっくり寄り添う助産所ができれば、助かる命が増えるのでは」といった意見も出た。
2月22日に開く検討会までに、専門部会で設立場所や費用、連携が必要になる医療機関や産科医などのほか、主要スタッフとなる助産師の確保などについて検討する。
兵庫医科大学ささやま医療センターの産婦人科は、医師2人体制での分娩継続が困難として、来年3月末をもって分娩を休止する。産科医不足による分娩休止と分娩機能の集約化は全国的な動きを見せている。
また、市は席上、10月の検討会で確認した妊婦専用救急車導入について、専用車ではなく、通常の救急業務の中で、来年4月から「妊婦救急搬送事業」を制度化する方針であることを報告した。
同事業は、事前に妊婦に住所や氏名、出産予定の医療機関などを登録してもらい、出産のきざしや異常が発生した際に救急車で搬送する。
消防本部は、「本来、高規格救急車は分娩にも対応しており、緊急時に呼んでもらって構わない」とし、「事前に登録された情報があれば、搬送の時間短縮につながる。何より、『救急車は呼びにくい』という意識を取り除いてもらえたら」とした。